ひとりで生きる尊厳と権利 中高年シングル女性の困難にも目を向けて
「シングル女性というだけで大家や近所からの目がきつい。嫌がらせをされる」 「賃金が低く生活がいっぱいいっぱい。蓄える余裕がない」 「収入が少ないイコールもらえる年金が少ないイコール働いてもその後ずっと経済的に困る」 「身元の保証が低いので住宅が借りにくい現状があります」 「ひとりで生き抜く社会の仕組みがほしい。ひとりで生きていく尊厳や権利がほしい」 「(女性が)高齢期をどう過ごすかのモデルがない」 単身で暮らす中高年女性の自助グループ「わくわくシニアシングルズ(以下、シングルズ)」の交流会には、このような声が集まる。シングルズは、将来の不安を抱える中高年シングル女性たちによって2015年に立ち上げられた。
代表の大矢さよ子さんは「性別役割分担の考えが根底にある日本の税・社会保障制度、男女の雇用格差や賃金格差によって、中高年シングル女性は経済的困難、貧困と背中あわせという現状にある。また既婚女性も、配偶者との離別・死別を契機に貧困に陥る可能性があるが、そのことが見えなくされている」と言う。 「女性への支援」といえば、夫婦関係や子育ての悩み、シングルマザー支援などに対するものがほとんどで、結婚していることや子どもがいることが前提であることが多い。しかし、そこに当てはまらない女性、特に中高年シングル女性の困難は課題として取り組まれることがほとんどない。そのため、シングルズでは、「ひとりと一人、つながれば知恵と力と笑みがわく」をモットーに、自分たちの生活不安が政治や社会から置き去りにされていると感じ、調査やシンポジウム、政策提言などの活動を行なってきた。 女性の支援に携わる人々の大きな期待を背負って24年4月に施行された「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下、支援法)は、その実施計画において、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害や若年女性の性被害、シングルマザー支援を主な対象としている。しかし、「法律の理念からいうと、対象を限るのはおかしい」と大矢さんは指摘する。 22年5月に支援法が制定されたとき、大矢さんは「女性であることにより様々な困難な問題に直面することが多いことに鑑み、困難な問題を抱える女性の福祉の増進を図る」という条文から、これまで支援の手が届かなかったさまざまな女性に光が当たるだろうと期待した。しかし、23年3月に厚生労働省が示した「困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針」は、DV被害や若年女性の性被害を主な対象としており、支援する女性の範囲は狭いものとなっていた。