猟友会“ストライキ”報道が波紋 発砲処分は「警察側の責任回避」、問題の背景を現役ハンターが解説
市の要請で発砲したハンターが処分、裁判では二審判決で逆転敗訴に
一連の問題にさらに深刻な影を落としているのが、冒頭の砂川市の裁判だ。2018年、砂川市からヒグマ駆除の要請を受けたハンターが、住宅の方向に発砲したとして書類送検(その後不起訴処分)され、銃の所持許可を取り消された。男性が処分の取り消しを求めた訴訟では、一審で道公安委員会の処分が違法とされたが、先月18日の二審判決では男性側が逆転敗訴となった。石名坂氏が解説する。 「市街地、法律用語でいう住居集合地域での発砲は、鳥獣保護管理法などで禁止されており、警察官職務執行法に基づく警察官の発砲命令がないと原則できませんが、実はこの住居集合地域の定義がはっきりと定められていない。周囲に家屋が少なく、バックストップ(銃弾が止まる柔らかい障害物、主に土の斜面のこと)がちゃんとあれば、通常の鳥獣法の枠内の発砲で大丈夫と解釈されてきた部分が長らくありました。発砲した方向の上方に住宅があったとして処分されたのが、問題になっている砂川市のケースです。 後の事務処理が煩雑なためか、道警は一部の県警と比較して警職法の発砲命令を出すことに消極的なようで、公表されているのは過去に数例しかありません。一方で鳥獣法の枠内で迅速に対応しようとすると、何か事故が起きた場合には最終的に引き金をひいたハンター個人の責任になってしまう。警察側の責任回避ではないかという批判ももっともだと思います」 石名坂氏が独立して「野生動物被害対策クリニック北海道」を立ち上げたのも、猟友会だけに依存したクマ問題解決に対し、新たな糸口を探るためだという。 「猟友会は、職業猟師ではなく普段は別の仕事をしている方々が中心で、言ってしまえば釣り同好会のような趣味の組織。たいていは指揮系統が曖昧で、土日以外は出動できないというハンターも多い。また、中には危なっかしい腕の人や獲物が目に入ると周りが見えなくなるような性格の人もいますが、趣味の組織だと、そのような人を排除して信頼できる人だけに出動してもらうというような調整が非常に難しい。そのため前職では、市街地周辺の微妙な場所でのヒグマ対応時には、一般猟友会員をたくさん呼ぶことは役場になるべく避けてもらって、自分が前へ出て発砲して駆除してしまうようなケースも多かった。 ただ、趣味のハンティングよりも業務としての鳥獣捕獲に数多く携わってきた身としては、仕事としてクマ駆除を行うのはリスク管理が本当に難しい。職種としては本来、消防士や警察官に近い性質のもので、このような危険な仕事はきちんとした身分の保証か、高い報酬のどちらかがないと成立しないものだと考えますが、野生動物の世界はそのどちらも成立しづらい。前職では基本的に前者的な在り方を模索しましたが、正直うまくいかなかった。独立した今は後者の在り方についても探っていますが、野生動物相手の仕事はあまりもうからない。動物病院を開業したり、公務員の獣医職をやっている大学の同期で、私より収入の低い人はおそらくいないでしょう。危険を伴う仕事でもあり、自分一人であれば個人の判断で何とでもなりますが、人を雇うことには消極的にならざるを得ません」 クマによる被害が後を絶たないなか、今後誰がクマの捕獲を担っていくのか。「本来なら、警察が専門のクマ対策チームを新設するのが最善手だと思いますが……」と石名坂氏。猟友会でも警察でもない“第3の選択肢”として民間事業者の取り組みも注目されるが、いずれにせよ、住民の安全を守るために一刻も早い対応が求められる。
佐藤佑輔