日本発祥の芸術品「スカジャン」の魅力とテーラー東洋の想い
「スカジャン」の魅力とは?
ー米兵が「スカジャン」に惹かれた理由は何ですか。 昔から米兵たちの間ではジャケットをカスタムする文化があり、自分たちの部隊のパッチを縫い付けたり、刺繍したりしていました。そこで米兵の興味を惹くため、日本特有の和装刺繍で鷲や虎、龍などの絵柄とJAPANの文字を入れたジャケットが登場したのです。 虎や龍は東洋らしいオリエンタルな雰囲気と力強さを併せ持っていますし、鷲はアメリカの国鳥でありシンボルです。米兵にとってこれほど魅力的な商品はありません。 戦後当時は物資統制があったため、生地はシルクに似た光沢のある「アセテート」が使われていました。米兵たちの着るフライトジャケット同様に、慣れ親しんだファスナーが用いられていたことで親しみやすく、さらに高級感のある素材によって、土産物として生まれたスーベニアジャケット(スカジャン)が特別なものに映ったのでしょう。
ー日本では、「スカジャン」はどのように受容されてきたのですか。 「スカジャン」は日本製だけれども、米兵が着るために作られたという特異な歴史から始まりました。先ほどもお話した通り、日本人がファッションとしてスカジャンを意識するようになったのは1960年代に入ってからです。ところが、80年代頃まではスカジャンを好んで着用する人たちの威圧的な雰囲気も相まって、良いイメージを持たない人も多くいました。 このイメージのひとつの転機は、90年代のヴィンテージ古着ブームです。戦後に米兵たちがアメリカに持ち帰った「スカジャン」はアメリカ古着として日本の市場で注目され、古着屋にいくと棚の上のほうに飾られていたんですね。なかでも刺繍の完成度が高いスカジャンや珍しい絵柄のスカジャンは古着屋のオーナーが非売品として保管しているような状況で、知る人ぞ知る貴重な逸品として価値を高めていったのです。 もともとは日本で生まれたものなのに、アメリカ古着として地位を確立し、日本であらためて評価されている。文化が一巡していることに衝撃を受けました。 ー「スカジャン」を文化として意識されたきっかけを教えてください。 「スカジャン」は、日本発祥の唯一の洋服。素晴らしい芸術作品だと思っています。私は戦後の1940年代後期から60年代初期頃までに作られたスカジャンをヴィンテージと定義しているのですが、70年代以降に作られたものは残念ながら素材や刺繍のクオリティが落ち、芸術的要素が失われていきました。ところが、ヴィンテージはまったく違います。 もともと和装の刺繍を手がけていた職人たちが、培ってきた技術を込めて、戦後の混乱期でありながらも完成度の高い作品を作り上げていました。日本独特の配色のセンスや経験に基づく緻密な運針は容易に真似できるものではありません。 これほどまでに、日本の伝統的な技術が込められている洋服は他に類を見ません。誕生にまつわる歴史背景も含めて、日本発祥の唯一の洋服であり、この文化は継承していかなければなりません。