【テイラー・スウィフト】Z世代に絶大な影響力をもつその理由とは!?
グラミーの年間最優秀アルバム賞を史上最多の4度受賞するなど、いまや名実ともに音楽界の頂点に立つテイラー・スウィフト。アメリカのZ世代を中心に、政治や社会に与える影響も桁違いに大きい歌姫を、モーリーはいったいどう見ている!?
彼女はあまりにも現象として大きいですが、今回はふたつのアングルに絞ろうと思います。ひとつはテイラー自身の意識と、そこへの共感がいかに進展しているか。もうひとつはそれに男性がどういう影響を受けているかです。 テイラーは過去のスターと違い、スターダムに押しつぶされていません。これまでいろいろな試練がありました。カニエ・ウェストの事件(ある授賞式のスピーチを、乱入してきたカニエに妨害された)もそう。テイラーのように若くして成功した人は、ただでさえ“自分は偽物だ”という不安に囚われがち。インポスター症候群というのですが、その傷口に塩を塗り込んだのがカニエ。ひどい話です。 彼女はその後、音楽スタイルを変えながら覚醒していきます。人気が沸騰する一方で、今度は「嘘くさい、卑屈な女」といわれだす。あまりにもヘイトが大きく、しばらく休養しました。それで出したのが『レピュテーション』というアルバム。ヘイトへのアンサーをいじけずにやり、同世代から下の女の子に刺さりました。ネットを介したいじめや劣等感に悩む子たちに、休養明けの彼女が「私は自分の基準でしか自分を評価しない」と力強く言いきったことが共感を呼びました。彼女自身も自分の写真を見て落ち込み、ガリガリに痩せた時期があった。だからファンが自分の苦しみとして一致できた。時代のミラクルゾーンですね。 テイラーが30歳を迎える少し前、中間選挙がありました。極右議員を当選させないために、彼女もインスタにいろいろと書いた。なぜ政治に首を突っ込んだかというと、その直前に彼女を見世物にするようなセクハラ裁判に巻き込まれたから。それで人権意識が高まり、様々なことにコミットしはじめます。LGBTQをテーマにした曲も作り、レディー・ガガの時代と違って肯定的に受け取られました。機が熟したといえるでしょうね。 おそらくZ世代を中心に、歌の歌詞を誠実に受け止めている層がいると思います。この層がアメリカの深いところに根を張りつつある。若い世代では、かつてバラバラに苦しんでいた人たちがお互いの痛みに共感し、団結できる。みんなで話し合って、共通する問題を正していく。その強靭な連帯力が、時代を変えていくエンジンになりそうな気がします。 ただ、彼女のような存在が社会に直接的な影響力をもちはじめるときには、必ず両面性があります。たとえば、テイラーのファンは少なからずガザ撤退派ですが、彼女自身は声を上げていない。すると「やっぱりテイラーは体制寄りだ」となり、彼女のインスタをブロックしようというハッシュタグが出回りました。「なぜ声を上げないの」となっちゃうんです。テイラーは今、自身の影響力に付随するリスクにさらされているといえます。この先どうするのかは大きな課題ですが、彼女ならうまくやるだろうと思います。 そしてもうひとつ、男性への影響です。つい最近のニューヨーク・タイムズの記事で、テイラーの彼氏のフットボール選手と、ハリスの副大統領候補になったティム・ウォルズの共通点を挙げていました。彼らは性別に関係なく社会の課題を受け止め、男性性にこだわらない。人前で泣くことを恐れず、感情を表に出す。有害な男らしさの権化であるトランプとは正反対だと。この記事を真に受けるべきかは少し疑問ですが、確かに男性が感情表現したり、悩みを積極的に打ち明けたりする文化が広がっているようです。 テイラーが暗示するのは、ボディビル的なマッチョさではなく、心の強さを含むヨガ的なしなやかさ。彼女のそうした路線が、少なからず男性にも影響を与えている気がします。この流れが進むと、いわゆる男女の"らしさ"が真ん中に寄っていくのかも。そして、そうした理想を思春期に浴びた子供たちが、どういう大人になっていくのかも気になります。