ハンセン病元患者が撮った富士山写真を展示 群馬の療養所で、差別・偏見残る社会に提起
富士山麓にある静岡県御殿場市の国立ハンセン病療養所に入所する元患者の男性(88)が自室ベランダで日々撮影した写真が、群馬県草津町の栗生楽泉園(くりうらくせんえん)で2月23日まで展示された。男性と交流するボランティア団体が企画した。「男性が見つめてきた景色を感じてほしい」。差別や偏見が残る社会に問題提起を続ける。(共同通信=岩沢隼紀) 男性は御殿場市の国立駿河療養所で50年以上、暮らす杉浦さん。差別や偏見があるため、名字のみを公開している。写真は生きがいの一つで、かつて療養所の写真クラブに所属した。 長野の上高地や京都を訪ね、風景をカメラに収めた。富士山に向けシャッターを切る際は「晴天ではつまらない」と思い、霧や雲がかかるさまざまな表情を捉えてきた。 展示を担うボランティア団体「ぷらす」代表の伊東郁乃(いとう・いくの)さん(65)=静岡県三島市=は2016年、元患者らが動物と触れ合うイベントで杉浦さんと知り合った。その後、岡山県の療養所入所者が太陽に照らされた富士山を見入る写真に出合い「富士山を見たいとの願いを持つ人が全国にいる」。すぐに杉浦さんが浮かび、展示を決めた。
国の強制隔離政策で故郷を離れ、完治後も差別や偏見から療養所にとどまる人は多い。高齢化や新型コロナウイルス禍といった事情もあり、杉浦さんがいる駿河療養所の入所者から「ぜひ杉浦さんの写真を届けてほしい」と背中を押された。 パネルに加工した写真16点を2023年8月から岡山県瀬戸内市の長島愛生園(ながしまあいせいえん)、熊本県合志市の菊池恵楓園(きくちけいふうえん)で順に展示。「杉浦さんがなぜここで撮り続けたのか、考えるきっかけにしてほしい」。伊東さんは各地の療養所で実施したいと意気込む。