【「熱烈」評論】暴力ではなく踊るバトルで解決するという“ブレイキン”に感嘆する!
パリオリンピックで正式種目として初めて競技が行われ、日本人女子選手が見事初代チャンピオンになって金メダルを獲得した“ブレイキン”。そんな最注目のタイミングで公開されるのが中国映画の「熱烈」である。作品は、ブレイキンの全国大会でトップを目指す青年が、挫折しながらも夢に向かって突き進む姿を描いた青春映画だ。 ブレイキンの起源は、1970年代初頭のニューヨーク、サウスブロンクスでアウトローな若者たちの縄張り争いから生まれたブレイクダンスが発祥とされている。多くの命が奪われていく中、そのパワーを「暴力ではなく音楽で解決する」というギャングのボスの提言により、“踊るバトル”=“ブレイキン”という形式が生まれたという。パリオリンピックで正式種目として採用されたことにより、カルチャーとして育まれてきた文化が“スポーツ”として認定されたのだ。 夢や希望を胸に抱きながら、挫折や裏切りなどを経て、仲間たちとの熱い友情でダンスバトルに挑む主人公を演じているのがワン・イーボー。アイドルグループUNIQのメインダンサー、リードラッパーとして活躍し、2019年のテレビドラマ「陳情令」で主役を演じて俳優としてもブレイク。そして映画「無名」(2023)で、第2次世界大戦下に活動する諜報員をクールに演じて、トニー・レオンとダブル主演を張ってみせた最注目の若手俳優だ。 そして、主人公の青年と師弟関係を組むブレイキンプロダンスチーム“感嘆符!”のコーチをホアン・ボーが演じている。チャウ・シンチー監督の「西遊記 はじまりのはじまり」(2013)で孫悟空を演じて中華圏きってのマネーメイキングスターとしての地位を確立した彼が、イーボーとケミストリーを起こしているのも見どころ。監督・脚本は、「無名」でイーボーと俳優として共演し、マルチな才能を発揮しているダー・ポンが手掛けている。 物語は“スポ根”映画の王道の展開と言え、主人公の成長と挑戦に手に汗握り、胸が熱くなるが、それ以上に目を見張るのが、やはりダンスとそのバトルシーンの迫力と身体表現の美しさだ。ダンサーの息づかいや鼓動、踊る喜びまでが伝わってくるので、大きなスクリーンと大音響で鑑賞することをオススメする。 1970年代のカンフー(功夫)映画を見てきた筆者は、約半世紀後の中国で製作されたバトル映画が武術やカンフーではなく“ダンス”であることに非常に深い感慨を覚える。少林拳や截拳道(ジークンドー)などでブルース・リーやジャッキー・チェンが戦い、相手を叩きのめす姿に胸を熱くしていたように、2020年代はダンスでの戦いに胸を熱くする時代や社会になったのだと。 70年代にサウスブロンクスで生まれた戦う手段が世界に普及し、武術の発祥の地のひとつである中国でも人気のスポーツとなってその映画が製作されたことは、映画史的な系譜から見ても意義深い。人に向けるパワーを暴力ではない手段で発散し、自己の中の怒りや不満、そして夢や希望を表現するものがダンスになった。本作には日本のアニメやゲームの影響も見て取れるかもしれない。クライマックスの見せ場には拍手喝采してしまうだろう。 (和田隆)