<春へ一丸・’23センバツ慶応>/上 強打生んだ「全球打ち」 相手投手へ、脅威と重圧 /神奈川
高台にあるグラウンドに快音が鳴り響く。第95回記念選抜高校野球大会への出場を決めた慶応が、5年ぶりのセンバツを引き寄せたのは、チーム打率が4割に迫る打線だった。その土台にあるのが、新チーム発足から本格的に始めた「全球打ち」の練習だ。 全球打ちはその名の通り、どんなコースの球にもバットを出す練習方法。「もう一段レベルを上げたい」と模索していた森林貴彦監督(49)が、慶応大野球部が取り入れていた全球打ちを導入したのが始まりだ。打ちやすい球を待ってしまいがちな選手たちに、バッティング投手が投げる球がストライクゾーンを外れても、とにかくバットに当てる練習を繰り返した。試合でも実践する。 単に打率を上げるのが目的ではない。森林監督は「ヒットでなくても、ファウルにできれば次にチャンスがくる。打てなくても、どんどん振って当てれば、相手投手への脅威になり、見えない重圧をかけることができる」と狙いを語る。 昨夏に始動した現在のチームで全球打ちの効果が最も表れたのは、福井直睦(なおとき)(2年)だ。直球が得意で、苦手意識が強い外角の球は練習時でも見逃すことが多かった。しかし「全球打ちで打たなければいけないという意識に変わった。苦手な外角にも自然と手が出るようになった」と語る。 昨秋から主に5番打者としてスタメン入りした福井は、公式戦12試合の打率がチームトップの4割8分6厘を誇り、13打点を挙げた。森林監督も「夏までは得意なコースの球は強くてもそれ以外は苦手だったが、秋からはいろんな球を打ってくれるようになった」と目を細める。 目指す甲子園では甘い球が来ないかもしれない。そんな場面を想定して編み出した練習方法でもあり、森林監督は「打席に自信を持って立たせたい」と話す。攻める姿勢を忘れずに、さらなる強打に磨きをかける。