【作家・村山由佳さん(60歳)】が肝に銘じる故・渡辺淳一さんからの「出家しないで書き続けてね」の言葉|美ST
恋愛小説の名手として話題作を次々生み出してきた作家の村山由佳さん。「刃の上を裸足で歩くようでなければいい小説は書けない」とプライベートでも激しい恋愛を経験した時期を経て、5歳年下の従弟でもある現在の夫と55歳で結婚。穏やかで優しいほほ笑みに、還暦を迎えた今の幸せな暮らしが伝わってきました。
《PROFILE》 ’64年東京都生まれ。’93年『天使の卵─エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’03年『星々の舟』で直木賞、’09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞、’21年『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。近著は、エッセイ『記憶の歳時記』(ホーム社)、小説『二人キリ』(集英社)。
言葉で傷つけられることもあれば言葉に救われることもある
7月に還暦を迎えました。誕生日の翌日が出張だったので、記念日ディナーはしていないのですが、朝いちばんに相方が「おめでとう」と祝ってくれました。数日後、デビュー以来お世話になっている出版社のみなさんに作家生活30周年も一緒に祝っていただきました。長年酷使したせいか、両手の小指がキーボードに沿う形で曲がってしまいましたが、その小指に勲章代わりのリングを贈っていただき、嬉しかったですね。 若い頃に想像していた60歳の感覚より、ずっと気は若いものですね。そうは言っても、確実に人生の折り返し地点は過ぎたので、残り時間を考えるようになり、イヤなことを無理矢理やっている時間はないなと。多少の不義理には目をつぶって、気持ちの動く方向だけに進んでも、もう許されるのではないかと思っています。 国語教師だった義母は80歳過ぎても現役で教壇に立ち、看護学校で主に論文の書き方などを教えています。時々、私の日本語を直されたりもして(笑)。年に数回、ひと回り上の桐野夏生さんや小池真理子さんと会うのですが、皆さんお元気で本当にキレイ。年齢を重ねても現役バリバリの女性を見ると励まされるものがあって、仕事をずっと続けていたいなと思います。かつて、故渡辺淳一さんに「後継者はあなただと思っている。出家しないで書き続けてね」と言われました。その言葉を肝に銘じ、死ぬまで枯れないものを書きたいと心から思います。