消える「6気筒エンジン」 ストイキ直噴主流の時代での存在意義
エンジンのモジュール設計が加速している。古い話をすれば日産のL型6気筒の2気筒を削って4気筒にするなど、モジュラー化の話は意外に古くからあった。しかし、現在のモジュラー化はそんなに牧歌的な話ではない。 【図】「良いガス・良い圧縮・良い火花」ガソリンエンジンの“魔法の言葉” エンジンの設計をする時、重要なポイントがいくつかある。ひとつはボアピッチと呼ばれるもので、これはひとつのシリンダーの中心から隣のシリンダー中心の距離を決めるものだ。 例えばシリンダー直径(ボア)が86ミリのエンジンでボアピッチが95ミリあったら、隣接するシリンダーを隔てる壁は9ミリあることになる。冷却水路の取り方や耐久性の取り方にもよるが、この設計が将来のエンジン排気量の拡大余地を決める。エンジンはひと世代で20年以上使う場合があるので、将来性のための拡大余地を考えるならボアピッチは大きい方がいいが、そうするとエンジンが大きく重くなる。新型エンジンを設計する時はこのボアピッチをいくつに取るかは重要なポイントだ。余談だが、新型エンジンが出た時、このボアピッチを見ると、どのエンジンがベースになったかをほぼ判断することができる。
変わりつつあるモジュラー設計の基本
しかし実は、それはすでに過去の話になりつつある。昨今のエンジンの性能を決めるのは一にも二にも燃焼だ。それを左右するのは燃焼室の設計なのだ。燃焼室設計が緻密になった結果、熱効率は大幅に向上したが、その分設計したボアを何ミリか拡大しようとしたら大変な手間がかかるようになってしまった。昔のエンジンはペントルーフならペントルーフで拡大設計すれば良しとされていたが、現在の緻密な燃焼室設計ではそんな荒っぽい改造は受け付けない。 その最大の理由は、ストイキ直噴がスタンダードになったからだ。ストイキとは「ストイキメトリー」で理論空燃比(※)のこと。もともとガソリンの直噴エンジンは、リーンバーン(希薄燃焼)のために開発されたものだ。しかしそれによって燃料を薄くすると正しく着火しないため、燃焼がくすぶり、希薄燃焼にもかかわらず燃料が濃い時と同様に煤を出す状況が頻発した。結果、煤が燃焼室内に固着してエンジン不調を起こし、クレームが多発して消えて行った。 しかしこの直噴を、希薄燃焼ではなくストイキ領域で使うと思わぬメリットがあった。吸気途中の空気にガソリンを噴霧すると気化潜熱で気体温度が下がる。温度が下がれば充填効率が上がり、加えてノッキングが起きにくくなって圧縮比を上げられるようになった。その結果、燃費とパワーが共に向上したのである。 現在の新しいエンジンは、ほとんど全てがこのストイキ直噴になった。ではストイキ直噴が万能かというと、そういうわけではないのだ。直噴のメリットは冷却効果であるのは前述の通りだが、デメリットは燃料の攪拌(かくはん)が間に合わないことだ。燃料が空気と均等に混じり合うには様々な条件があるのだが、直噴の場合、その時間が短いことが問題になる。 旧来型の、エンジンの外で燃料を吹くポートインジェクションの場合、十分に空気と燃料が混じり合う時間がある上、吸気通路やバルブを通る過程で攪拌されて、ほぼ均等な混合気になる。ただし、吸気管に付着する分の燃料がいつ気化するかは外気温やエンジンの加熱状態に依存するため、微細なコントロールができないのだ。混ぜるのは得意だが緻密にコントロールできないのがポートインジェクションだ。 それぞれに得意不得意があるので、最近ではポートインジェクションと直噴を使い分ける方式も出てきた。それはこの両方のデメリットを避けて運転するためだ。ただしインジェクターが2系列必要なためもちろんコストがかさむ。