東京都が主導する「マッチングアプリ」“成婚格差”拡大の恐れも? 2年間で約5億円の予算「結婚支援事業」の効果とは
「成婚格差」を拡大させる恐れ
従来の婚活サイトやデートアプリなどでは、とくに男性は最終学歴と年収が高い方がマッチングしやすく有利であることが指摘されている。 AIを含む新規科学技術を社会実装する際に生じうる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について研究し、「マッチングアプリで『好みでない人のタイプ』を書くのは差別か?」などの論考もある倫理学者の長門裕介氏(大阪大学・特任助教)は、「AIマッチングシステム」でも既存のアプリと同様に年収や最終学歴の入力が必須である点には、サービスとしての有効性と不公平性の「ジレンマ」があると指摘する。 「パートナーになりうる人の学歴や職業、収入はほとんどの人が気にするところであり、こうした情報の開示なしで婚活を進めるのは無理があるため、職業や年収などの項目を求めない仕様にすることはサービスの存在意義を疑わせることになるでしょう。 一方で、自治体など公的な機関が行う施策としては、既存のサービスも含めた婚活の場で苦戦している人のためにはならず、既存のサービスだけでも成功する可能性が十分にある人の機会を増やすに過ぎないという点で、不公平なものになる可能性があります」(長門氏) 従来の日本の婚活でも、男性であれば年収、女性であれば年齢などの「スペック」が重視されてきた。 マッチングアプリは「スペック重視」の傾向をさらに露骨にして、年収の高い男性や年齢の低い女性ばかりが結婚でき、そうでない男女は結婚できない「成婚格差」をますます拡大させる恐れがあるのではないか。 「アプリが格差を拡大している側面に、自治体がどれだけ気付いているかはわかりません」(長門氏) なお、都知事選で話題になった石丸伸二・元安芸高田市長は「支援がなくても結婚する可能性が十分にあった人たちに、多額の税金を使って出会いの場を提供することに意味があったのか」として、約4600万円の事業費が投じられていた安芸高田市の結婚支援事業を2021年に廃止している。 ただし、自治体が運営するマッチングアプリは、利用料金などが民間のものよりも低コストになることが想定できる。そのため、低収入者が利用するハードルを下げて格差を是正する効果が発生する可能性もある。