「セロトニン」低下が新型コロナ後遺症の倦怠感やブレインフォグなどの発症に関与か 米研究
セロトニンとは?
編集部: ペンシルベニア大学らの研究グループが、今回の研究で新型コロナの後遺症との関連性を示したセロトニンについて、どのような物質なのか教えてください。 郷先生: セロトニンは脳内の神経伝達物質の1つで、今回の研究でも登場したトリプトファンから生合成されます。セロトニンが高濃度に分布している場所は、視床下部や大脳基底核・延髄の縫線核などです。セロトニンは、喜びや快楽などに関連するドパミンや恐怖や驚きなどを司るノルアドレナリンなどの神経伝達物質の情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。セロトニンが低下するとこれら2つのコントロールが不安定になり、バランスを崩すことで攻撃性が高まったり、不安やうつ、パニック障害などの精神症状を引き起こしたりすると言われています。セロトニンの低下の原因は、女性ホルモンの分泌の減少が関係していることが判明し、更年期障害と関わりがあることも明らかになっています。
今回の発表内容への受け止めは?
編集部: ペンシルベニア大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。 郷先生: 現在、新型コロナウイルスの後遺症に対しては種々の薬剤や漢方薬などが使用されていますが、原因がはっきりとわかっておらず画一化された治療法はありません。今回の研究は、新型コロナウイルス後遺症の場合にどのような変化が体内で起こっているかの一部を解明することができました。セロトニンという物質は抗うつ薬など種々の薬剤で作用を調節しています。そのため、そのような薬を使用することで新型コロナウイルスの後遺症に対して有効性が認められる可能性があるほか、特異的に補充や阻害をすることで症状を抑える新しい薬が開発される可能性も出てきています。新型コロナウイルスの後遺症に悩む人にとって、非常に有益な情報が発見されたと言えるのではないでしょうか。
編集部まとめ
アメリカのペンシルベニア大学らの研究グループは、新型コロナウイルスの患者の一部で、腸内に数カ月残ったウイルスがセロトニン濃度を低下させ、倦怠感、ブレインフォグ、記憶力低下などの新型コロナ後遺症の症状を説明できる可能性があると発表しました。研究グループは「今回の研究がセロトニンの濃度が低下している患者を選別し、治療反応を評価するといった臨床試験につながることが期待される」とコメントしていて、今後の研究に期待が集まります。
【この記事の監修医師】
郷 正憲 先生(徳島赤十字病院) 徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。