「長瀬さんに恥をかかせたくない」――ドラマ『俺の家の話』を支えた現役レフェリーが語る“舞台裏”
「まず、デカい、手足が長い。僕が知っている情報よりデカく感じました。声もいい。大きくて太くて通るんです。だからマイクアピールも決まる。運動神経もすごくて、受け身やロープワークなどの基礎から始めたのですが、前回り受け身はすぐにできるようになりました。技もむちゃくちゃ上手い。すぐできるというだけではなくて所作がきれいなんです。これはプロレスラーでもなかなかできないことですよ」 長瀬がプロレスラーとしての魅力を放っていく一方、悲哀をまとった場面があったという。リングに敷く3メートルぐらいの重く長い板を担ぐ、リング設営の場面だ。 「長瀬さんは膝をケガしている設定で、足を引きずりながら歩く。もちろんやった経験はないから最初はぎこちなかった。それがこうやったほうがそれっぽく見えますよと伝えて担いだら、後ろ姿に哀愁が漂ったんです」 その様子は、元メジャー団体で活躍していたが今はインディー団体で若手と交じって一緒に設営を手伝ってくれる、そんな元スターレスラーそのものだった。 「現場にいたレスラーが口をそろえて、本当にこういう人がいるみたいだって。もういいです、俺たち若手がやりますから、控室戻ってくださいって言いたくなりました(笑)」
「もっと難易度を上げたい」と相談を受ける
撮影が進むにつれて、長瀬の中でもっと難易度を上げていきたいという気持ちが強まったという。もっとあれをやりたい、これをやりたいという相談が木曽にあった。 「長瀬さんの体の心配はありました。受け身一つでもレスラーとは負担が違う。長瀬さんも時折、しんどそうにしているところはありましたし。それでも長瀬さん自身がプロレス好きで、リスペクトしてくれていて。それは大きかったですね」 長瀬が覆面レスラーのハヤブサや、ブルーザー・ブロディが好きというのはプロレスファンにはたまらない情報だろう。
しかし、パーフェクトに見える“プロレスラー長瀬”にも、弱点があった。 「ドロップキックが苦手なようでした。ミット相手にはできるんです。それが人を相手にするとうまくいかない。難易度の高いムーンサルト・プレスなどの飛び技は、こんなにきれいなものは見たことがないっていうレベルでできるのに、いざ人を殴ったり蹴ったりがあまり得意でない。練習でレスラーが、『本当に大丈夫なので全力で来てください』と言ってもなかなかスムーズにできない。ラリアットも思い切りバーンといけなくて。ラリアットのシーンは何度も、何度もやりましたね。優しさが弱点なのかもしれません」