ウミグモのオスはなぜ「子煩悩な父親」なのか、南極の巨大種で謎を解く手がかりを発見
なぜ担卵肢がないのか
これまで、南極のオオウミグモのオスもこのような子守りをしているのかどうかは、よくわかっていなかった。25センチほどになるこのウミグモのオスには、担卵肢がないからだ。また、卵を運んでいるところが目撃されたこともなかった。 しかし、今回の研究では、南極で捕獲した野生のウミグモの繁殖行動を観察し、卵を体につけないことがわかった。体の代わりに卵をつけていた場所は、岩などの海底の構造物だ。 「オスは2日間にわたって、卵塊のまわりを歩きまわり、世話をしているように見えました」。米ハワイ大学マノア校の海洋生理生態学者で、2024年2月11日付けで学術誌「Ecology」に発表された論文の筆頭著者であるエイミー・モラン氏はそう話す。 この行動は、オスのウミグモが親としてどのように進化してきたかを解き明かすものかもしれない。前述のバレート氏は、「中間的な行動をする種がいる証拠が得られたわけです。つまり、体にくっつけると非常に労力がかかるので、そうはしませんが、それでも世話はしています」と話す。なお、バレート氏は今回の研究には参加していない。 「なぜそれが始まったのかという点で、新たな視点が開かれたと言えるでしょう」と、モラン氏も述べる。
「まだ謎だらけ」、体の一部を再生できる種も
卵を運ぶことで、オスは大きな犠牲を払っているという研究もある。バレート氏によると、卵は重いうえ、自分のために費やす時間を充てて世話をしなければならない。 体が見えなくなるほど、たくさんの卵塊を抱える場合もある。すると、寄生虫などの脅威の影響も受けやすくなる。「かなりのエネルギーが必要になるでしょう」とバレート氏は言う。 しかし、ウミグモのオスがなぜそこまでの犠牲を払って子育てをするのか、その理由はよくわかっていない。ウミグモのメスは、受精卵を渡すところまでしか子育てに関与しないことが多い。 とはいえ、ウミグモのオスについて研究すれば、海の節足動物のことはまだほとんど何もわかっておらず、動物の世界は一筋縄ではいかないことが明らかになる。 「離島や海山を訪れるたびに、新種や新たな事実が明らかになります」とアランゴ氏は言う。たとえば、2023年1月に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された研究によって、ウミグモは体の一部を再生できることが判明した。 アランゴ氏はこう述べている。「このすばらしい生物について何かがわかると、とても興奮します。ウミグモはまだ謎だらけなのですから」
文=Alice Sun/訳=鈴木和博