世界自然遺産「奄美大島」公共工事に環境保護団体が警鐘 ユネスコに調査を要望
政府の説明に疑義
そうした嘉徳浜で、14年の2度にわたる台風被害をきっかけに同集落から災害対策の要望が上がり、それを受けた鹿児島県が侵食対策事業として護岸工事を計画。見直しを求めた一部の住民らが事業にかかわる公金支出の差し止めを求める訴訟を提起した。現在も係争中だが、住民側が一審、二審と敗訴。今年5月に最高裁に上告した(本誌5月17日号で既報)。工事は7月に再開され、現在は工事用仮設道路を作るために砂丘を掘削中だ。 「守る会」理事で嘉徳集落住民の武久美さんによると、砂丘の背後にある同集落(14世帯17人)は、「ポケットビーチ」と称される形態の湾を持つ希有な地形にあり、ここに砂丘を掘削して設ける仮設道路の工事が進めば「砂浜が持つ防災能力が低下し、集落を危険にさらしてしまう。世界自然遺産にまで影響が及ぶだろう」と言う。 前出の髙木さんも工事について「日本政府はユネスコには嘉徳川や周辺の自然環境に影響のない護岸工事だと言っているが、事実と異なる。嘉徳を含め奄美大島全体の緩衝地帯での自然環境の保全状況の調査をユネスコに緊急に求める」と話し、根拠となる証拠を含む報告書を後日送付する予定だ。 環境省や鹿児島県、島内自治体に問い合わせると、環境省自然環境計画課は「河川本体と工事予定箇所は十分に離れており、河川への影響は懸念されない。自然環境にも配慮したうえで行なっており、住民の生命や財産を守るためにも必要だとユネスコに丁寧に説明し、理解されていると思う」。 鹿児島県河川課は「裁判で(工事の適正さは)認められており、地元の人たちから要望を頂いたもの。工事は進めていく」。奄美市は「会見内容を見ておらず、コメントは差し控える」。瀬戸内町は「住民の不安な思いもしっかり受け止め、一日も早く心静かに穏やかな生活・暮らしができるよう、早期に護岸整備を進めていただく必要があると考えています」と、それぞれ回答した。