「動けない大国」アメリカの行方 第3回:「議院内閣制」化するアメリカ政治 /上智大学・前嶋和弘教授
特筆したいのは、「政治的分極化」現象が一気に進むことは、かつては頻繁にあった両党の間の妥協の機会も決めて少なくなっている点である。重要法案の賛否で両党は自分たちの立場を譲らず、法案審議が膠着してしまうことも頻繁に起こっている。現在のアメリカの連邦議会における共和党と民主党とのイデオロギー対立の激しさは未曾有といっても過言ではなく、議院内閣制の国家と大きな差はなくなりつつある。 外交政策でも「政治的分極化」が進んでいる。例えば、オバマ外交を「現実的」とみる民主党支持者が少なくないのに対して、共和党支持者の多くは「弱腰」とみる。両者の間の共通理解は少ない。
(3)「統一政府」と「分割政府」
政党で政策の方向性が決定的に決まるため、大統領を擁する政党が上下両院で多数派を占める「統一政府」なら、大統領の政策にとって大きな追い風が吹く。イラク戦争開始(2003年3月)、医療保険改革法成立(2010年3月)というブッシュ、オバマ両政権の最大の政策が進んだのも、それぞれ共和党と民主党の「統一政府」の時期だったのは偶然ではない。 しかし、「統一政府」はむしろまれである。というのも、そもそも、国民世論がちょうど2つに分かれているため、共和・民主の支持が拮抗し、議会の議席数の差も比較的大きくないためである。大統領と同じ政党と議会の上下両院のどちらか(あるいは両方)の多数党が異なることを「分割政府」と呼ぶ(日本的にいえば「ねじれ」だが、その「ねじれ」は大統領と議会との関係にある)。「統一政府」よりも「分割政府」の期間が圧倒的に多く、南部の保守化が顕著になりだした過去30年間で「統一政府」は8年間しかない。上にあげた「統一政府」の期間も、前者はナインイレブン直後の危機感、後者はブッシュ前政権に対する強い反発という、世論の例外的な盛り上がりを背景にしている。 「分割政府」が続くことで、「動かない政治」「決まらない政治」も固定化してきた。 ※この連載は5回続き。第4回「『アメリカ後』の世界と新たな覇権国家」は26日(火)に掲載予定です。