胸が苦しくなるほど「完璧」 アストン・ヴァンテージ フェラーリ・ローマ ポルシェ911 3台比較(2)
高度に安定しスピード感の薄いヴァンテージ
ヴァンテージのサスペンションは、彫刻作品のようなボディを可能な限り水平に保つ。タイヤの接地面が維持され、強大なパワーを路面へ展開できる。ダンパーを1段階引き締めれば、殆どの状況へ対処できる。 秀抜なグリップ力で高度に安定し、スピードを感じにくい。異常にすら思えるほど。だが、電子制御されるリミテッドスリップ・デフと、シャシー、タイヤの理解が深まれば、アクセルペダルでの自在なライン調整へ挑める。 ステアリングは極めて高精度で、カーブへ不安なく飛び込める。パワートレインの本域を召喚すれば、アップデート前を遥かに凌駕する、懐の深さへ言葉を失う。 基本的には、落ち着いていて超高速なグランドツアラーだが、ドライバーが求めれば豊かな表現力を謳歌できる。ただし、この2面性は少し作為的かもしれない。 ローマの姿勢制御は、上下動も加わり3次元的。煮詰められた減衰特性を活かし、ボディは前後左右へ優しく傾く。4シーターのフェラーリは、コンパクトなトヨタGR86のように慣性を感じさせない。 ステアリングホイールとアクセルペダルの感触も素晴らしい。リムは細身で、レシオはクイック。シフトパドルの印象も同様。高速道路を安楽に流すこともできるが、その直後に高笑いしたくなる高速コーナリングも披露する。 ローマは、型にはまったようにカーブを曲がらない。指先で繊細に操りながら、ラインをシームレスに選んでいける。ドライバーが望んだ通りの旋回を、自由に引き出せる。
運転の喜びを深く理解した仕上がり
ヴァンテージもトランスアクスルを採用し、理想的な前後の重量配分を得ているが、アストン マーティンとフェラーリによるシャシーの解釈は対照的。ローマのV8エンジンの半分が、フロントガラスの下へ隠れるほど低く後方へ載ることも、その一端だろう。 ヴァンテージのフロントタイヤの幅は、ローマのリアタイヤとほぼ同じ。後者が生物のように活き活きとした印象を残すのに対し、前者は質量を抑え込み、路面へ馬力を伝えることを最重要視したような心象を残す。 最新のハイエンドなグランドツアラーでも、レス・イズ・モアは当てはまる。四輪駆動の911 ターボSは3台で最速だが、クルージング時の洗練性が足を引っ張る。通勤にも使えるストリートファイター、といった目標は達成しているけれど。 ヴァンテージは、この中で最高のグランドツアラーだ。強力なパワートレインだけでなく、ドラマチックなスタイリングやインテリアの魅力は尽きない。無敵感のような、特別さにも惹かれる。 だとしても、登場がこの中で1番古いローマが、残りの2台を抑える。最も軽く、最も快活。オールドスクールなグランドツアラーを運転する喜びを、深く理解した仕上がりにある。まさに悦楽の体験だ。 この3台は、優劣を付けるのが簡単ではないほど素晴らしい。それでも、スリムなフェラーリは胸が苦しくなるほど完璧なのだった。 強力:トップ555社、ロブ・バーネット氏