陸の近くで急発達する危険な台風やハリケーンが温暖化で激増、嵐が嵐強める悪循環も、研究
温暖化でさらに嵐が強くなる
海洋は熱帯低気圧に複雑な影響を及ぼしうると、米エネルギー省パシフィック・ノースウエスト国立研究所の大気科学者であるルビー・レオン氏は指摘する。 例えば、河川からの大量の淡水が海に流れ込んでいるところでは、塩分が濃く密度が高い(重い)水の層の上に、塩分が薄く密度が低い(軽い)水の層が重なっている。ここに嵐が来ても海水は混ざりにくく、下の層の冷たい海水が表面に上がってくることもない。表面の海水が温かいままであれば、熱帯低気圧は発達しつづけることになる。 このような海洋の成層化は、熱帯低気圧が特に大量の雨を降らせたときにも起こる。この場合も、海洋の表面に淡水の層が加わることで、浅いところの温かい海水と深いところの冷たい海水が混ざりにくくなる。すでに北太平洋などでは、気候変動に伴う降雨量の増加による淡水化が、台風の勢力を強めている兆候がある。 レオン氏は、温暖化により台風やハリケーンによる降雨量が増え、海洋が成層化して、台風やハリケーンの勢力がさらに強くなるという悪循環が生じていると指摘する。 研究によると、近い将来、米国の人口密集地域はハリケーンの被害に遭いやすくなるという。米ファースト・ストリート財団は、ミシガン州南東部の人口の約40%が、ハリケーンなどで降雨量が増えるせいで自分の住む地域の洪水リスクが高まっていることに気づいていない可能性があると見積もっている。 地球全体で見ても、台風やハリケーンなどの熱帯低気圧に直撃される範囲は大幅に広がると予想されており、今後、何百万もの人が、急速に発達する熱帯低気圧により壊滅的な被害を受ける可能性がある。 「これは大きな問題です」と、米テキサスA&M大学の海洋学者であるヘンリー・ポッター氏は言う。「残念ながら、夏の海が温水になり、嵐が勢力を強めるのに最適な深い風呂になるのは避けられないからです」
文=Chris Baraniuk/訳=三枝小夜子