ワゴン車で暮らす47歳の元歯科医。年収1000万円から“たった3年”で一家離散、ローン完済目前の家を失うまで
コロナ明けを襲った令和インフレで深刻化する貧困問題。仕事を失って衣食住もままならないなか、最後の砦ともいえる“住まい”を失った中年男性たちの実態とは?他人事ではない家なき中年の壮絶な生活に迫った――。 ⇒【写真】無造作にマットレスを置いた車内で暮らしている
インフレで勤め先が経営難。元歯科医が家を手放すまで
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言解除から半年がたち、街に活気が戻った’23年11月。 元歯科医の高田洋次さん(仮名・47歳)は、人知れず住み慣れた我が家を離れた。 「まさか自分が家を失うなんて」とこぼすが、それもそのはず、3年前までは歯科医師として1000万円近くの年収を得ていたのだ。
勤めていた歯科医院が経営難に
そんな彼の生活に綻びが生じたのは、勤めていた関西の歯科医院の経営難がきっかけだった。 「コロナ禍で高齢者を中心に受診控えが起きたのは痛手でした。さらに’20年の末ごろから電気代をはじめとする光熱費が高騰、治療に必要な歯科材料のほとんどが10%前後値上がりしました。特に銀歯の材料となる金属価格が暴騰し、仕入れ値は半年で3割増しです。うちは保険診療メインの歯科医院だったため診療費は保険点数に応じた額しか取れません。利益はほんど出なかったようです」
ローン完済目前で売却。妻に見放され一家離散
経営そのものが危うくなるなか、院長と折り合いが悪かった高田さんはあっさりと解雇の憂き目に遭ってしまった。 「解雇となったのは’21年の年末。バイト医として日銭でも稼ぐべきでしたが気力が湧かず、精神科に相談に行くとうつ状態だと言われました」 高田さんは関西の高級住宅地に一軒家を構え、妻と一人息子の3人暮らしをしていた。傍から見たら恵まれた生活だ。 「実際は35歳のときに組んだローンの返済額が月々35万円、加えて息子を母校の歯学部に卒業生推薦で入学させたので、初年度は2000万円以上もの学費がかかりました。貯金なんてほぼありません」 退職から1年で住宅ローンの返済すらままならず、カードローンで補塡。4か月ももたず、カードは上限に達し、クビが回らなくなった。