“毒親”がこんなに!? 今春の注目作から考える。子どもはいかに育つのか、いかに感性や存在を殺されるのか
リュック・ベッソンが久々放つ傑作『DOGMAN ドッグマン』
リュック・ベッソンと言えば、『グランブルー』『ニキータ』『レオン』など映画界に新風を吹き込み、傑作を連発した俊英というイメージでしたが、長い人生ですもの、山あり谷あり(笑)。最近は、あくまで個人的な好みですが、かつてほど目の色変えて絶対に観る!!と言うほどではないかな…なんて思っていましたが、久々来ました! たまらなく面白い『DOGMAN ドッグマン』。
ある晩、女装姿の負傷した男と十数匹の犬たちが乗るトラックが警察に呼び留められます。“ドッグマン”と呼ばれる男は、信じられない半生を語り始めます。かつて父親から毎日のように暴力を振るわれていた幼いダグラスは、遂に犬小屋に閉じ込められてしまいます。しかし父親が飼う闘犬たちと深い絆を育み、その真っ直ぐな愛に癒され、どうにか生き延びます。やがてそこから抜け出し、犬たちと生活のために犯罪に手を染めるのですが。 監督は、「5歳の我が子を監禁した家族」という実際の事件に着想を得たそうです。大人になったダグラスを演じるのは、『アンチヴァイラル』(12)に主演して注目されたケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。繊細さとカリスマ性を感じさせる味わいが絶品です! 自分より弱い者はすべて暴力で屈させようとする父はもちろん、そんな父にへつらう兄も最低最悪なのは言うまでもないですが、幼いダグラスを置いて出て行ってしまう母親にも、思わず「ちょっと待ってよ~!!」と立ち上がりそうになりました。夫の暴力に耐えられない、その気持ちはとっても分かるのですが……。
この毒父・毒兄を見るにつけ、きっと自分たちも同じような環境で育ってきた当然の帰結というか、やっぱり連鎖なんだろうな……と脱力してしまいます。だからこそ、いかにも繊細そうで、けれど暴力には嫌悪を示すダグラスは、絶対に許しがたい目障りな存在だったのでしょう。 栄養等々の物理的な問題はさておき、絶望や心の痛み、誰にも愛されない孤独感に打ちのめされる少年にとって、じっとそばで寄り添ってくれた犬たちの温もりだけが救いでした。理不尽な怒りや憎しみをぶつけてくる人間の対極にあるような、真っ直ぐで決して裏切ることのない犬たちの愛情。犬への感謝と愛と信頼の言葉は、大人になったダグラスのセリフに何度も登場します。