コロナ明け地元陳情しても中国便再開は… 米自治領サイパン、安全保障の懸念優先
サイパン島がある米自治領の北マリアナ諸島で「唯一の産業」の観光業の苦境が深刻化している。アーノルド・パラシオス知事は共同通信と会見し、新型コロナウイルス禍で激減した中国人観光客を呼び戻すため、中国本土との直行便再開を地元から陳情されているが、安全保障上の懸念があると強調。米連邦政府に再開を求める考えはないと明言した。(共同通信=佐々木健) ▽にぎわいは過去、シャッター街に かつてサイパンは日本人でにぎわった。観光局によると、最盛期の1997年度には約73万人が訪れたが、うち約45万人が日本人だった。東京だけでなく大阪や名古屋、札幌、福岡からも直行便があった。だが日本人は徐々に減り、韓国人と中国人に追い越された。 コロナ禍を機に、香港路線を除き中国本土からの直行便が消えた。日本人も2023年7762人と低調で、来訪者の約8割は韓国人。2024年5月の大型ホテルの客室稼働率は約35%にとどまった。
ホテルの廃業が相次ぎ、中心街ガラパンでは観光客向けの店の多くがシャッターを閉じたまま。ビーチも閑散とし、職歴約20年の水上バイク指導員は「以前は多くのお客さんがいたのに、今は日本人も中国人も少数になった」と嘆く。 中国人観光客の回復策を求める声も聞かれるが、パラシオス氏は「(安保を)気にかけず『中国に門戸を開いてほしい』と米連邦政府に頼むわけにはいかない」と反論した。中国が威圧を強める南シナ海情勢を挙げ「インド太平洋地域の状況は悪化している」とし、米軍は北マリアナ諸島やグアム、フィリピンなどで軍備を強化していると述べた。 ▽人気の就学旅行先も円安の重し 観光局のジュディ・トーレス副局長も「地政学的理由」で中国直行便の再開が見込めないと語った。日本人の誘致に力を入れるが「第一の問題が円安。米ドル流通地域への旅行が割高になった。日本政府のコロナ対策の支援で国内旅行が人気になり、沖縄と競争している」と言う。
現地旅行会社PDIの高橋成典社長は、日本人客が減ったのは直行便の減少も要因だと説明。戦跡や文化体験など教育素材が多いサイパンは修学旅行先として人気があった。ユナイテッド航空が成田との間を週3往復しているが、2025年後半以降の運航が確定しておらず、学校の検討対象から外れてしまうという。 高橋社長は「日本の若い世代はサイパンがどこにあるのか知らない」と指摘。「安近短」のイメージを脱却し、今こそ新たなブランドとしてサイパンを売り込むべきだと訴える。