生産領域のDXに踏み出す三菱マテリアル 「ぎりぎりの現場」でどう改革を進めるか
Eスクラップの取引基盤構築とIoTデータの半自動集約化を実現
端山氏はMMDXの成果の1つとして、Eスクラップの取引プラットフォーム「MEX」(Mitsubishi Materials E-Scrap EXchange)の構築を取り上げた。Eスクラップは携帯電話やPCなど、銅や貴金属などを含んだ電子機器の廃棄板のこと。Eスクラップのリサイクラーや商社がEスクラップの出荷予約や取引/処理状況の確認をWeb上で行える。時間や場所を選ばず取引ができる上、三菱マテリアルによるスクラップの分析結果などを写真や動画と併せて確認できるようになる。 三菱マテリアルにとっても、金属資源データの在庫管理の精度向上が図れるというメリットがある。過去のデータを基に、リサイクラーや商社から回収したEスクラップに含まれる、金属含有量の見込み値を算出できる仕組みを整備した。 以前はサプライヤーからの自己申告に基づいており、金属含有量の見込み値と実績値の乖離(かいり)が生じることも多かったが、MEX導入によりこうした課題が解消されつつある。三菱マテリアルはEスクラップ取り扱い数量を2030年度末までに2019年比で50%増となる24万トンにする目標を掲げており、今後もMEXの機能拡充を計画している。 もう1つのDX事例が、工場設備から収集したIoT(モノのインターネット)データの半自動集約化だ。IoTデータは月間で1工場当たりおよそ50億件に上るが、これらをテスト的に全社共通データウェアハウスに格納している。端山氏は「現在は発生データを全て流し込んでいるが、将来的にはAI(人工知能)を活用するなどで、データを選別、処理した上で格納する仕組みを構築したい」と語った。 三菱マテリアルにおける今後のDXの取り組みについて、端山氏は「データ活用を社内で広げつつ、社員のマインドも変えていけるような活動にしていく」と語った。
改革テーマ数に対して足りない人材
以下では、MONOistによる端山氏へのインタビューの内容を抜粋して紹介する。 MONOist 貴社は2020年度からDX戦略を本格的に推進し始めました。背景について教えていただけますか。 端山氏 それまで当社では、事業部の要望、要件をヒアリングしたうえでスクラッチ開発したシステムを導入してきた。各事業部が必要とする機能はそろっているが、それだけではデジタルを使いこなす企業に競争力で及ばなくなっていく。 そこで2020年度に発表した中期経営戦略に初めて「DX」という言葉を盛り込んだ。ただ、当時は具体的な取り組みが固まっておらず、社内の人材での取り組みに限界があった。そのため、CDO(最高デジタル責任者)を外部から招き、社長や役員などと対話しつつ約20個の改革テーマを定めた。 しかし、実際に取り組もうとすると人材が足りない。中途採用に尽力するとともに、データサイエンス室やDX推進室を立ち上げるなど体制構築を進めた。データサイエンス室についていえば、当時データ分析の専門家は社内にいたわけではないが、必要だからまずは形から入ろうということで作った。設立当初は私が室長を兼務していたが、1年ほど時間をかけて人材確保することに成功した。併せてCIO(最高情報責任者)も招き入れ、2022年度までにDXの推進体制を整えた。 2023年度からは30個超の改革に取り組み始めている。ただやはり、DXのテーマの多さに対して人材不足感が慢性的にある。製造業なので蓄積データが多く、その点に興味をもって来てくれる人材はいるが、なかなか厳しい状況が続いている。 MONOist 社内でのDX人材育成はどのように取り組まれているのでしょうか。 端山氏 全社的なITリテラシー教育と高度なデジタル人材教育を両方進めている。ITリテラシー教育については国内拠点はおおむね実施できており、今後は海外拠点にも言語の壁を乗り越えて広げていこうと考えている。 高度なデジタル人材教育は参加者を公募制で募集しており、プロジェクト管理やITツール、統計解析、マテリアルズインフォマティクスなどのデータ活用について学べる。一方で、日々の業務と並行して受講することになるため、自部門の業務が忙しい若手だと参加しづらい面もある。そのため拠点長やマネジメント層に対しては、「業務調整してどんどん参加、チャレンジさせてほしい」と伝えている。 とはいえ、現場がぎりぎりの人数で日々の業務を回していることは確かだ。業務効率化をしたいがその時間が取れないという現場に対して、本社側でも優先順位を決めつつ支援をしている。現在、データサイエンス室の人員も半分ほどを各事業所の現場に向かわせている。もちろん支援側も人数に限りがあるので全事業所をカバーできないが、向かった先では成果が出ており、今後は事業所間での横展開に取り組む。 関連して、社員のデジタル化の取り組みを後押しする「DXチャレンジ制度」を設けている。日々の業務改善におけるデジタル化支援を目的としたもので、社員に資金や技術面でサポートを提供する。MMDXでは幾つもの改革テーマを設定したが、現場の改善ニーズはより細分化されている。そうした部分の支援を行っている。