精神疾患の回復後「復職」めぐり主治医と産業医が激突、従業員は“自動退職”に…裁判所が支持したのはどちらの診断?
裁判所の判断
結論は、会社の勝訴である。理由は「Xさんの症状は治癒していなかった」から。以下、復職をめぐるトラブルについて、裁判所がどう判断するのかを解説する。 ■ 自動退職とは? 簡単に言えば【休職期間中に治癒しなければ自動的に退職】となる制度のことである。多くの会社の就業規則には自動退職の規定がある。 ■ 治癒していた? 多くの裁判で争われるのは「治癒していたかどうか」である。治癒したことについては、復職を希望する労働者自身が立証しなければならない(立証責任)。 ■ 主治医 vs 産業医 裁判では、今回のように主治医と産業医の診断が食い違うケースが多い。今回は産業医の診断に軍配が上がった。裁判所は、概ね以下のとおり理由を述べている。 ・Xさんの精神疾患は2014年3月以降、6年の長期間にわたって要治療状態にあった。 ・(復職を希望した)2020年3月当時も薬効の強い薬剤が多種類投与されていた。 ・Xさんは休職した2018年9月以降、1年6か月余りの間、ほぼ外出しないまま自宅療養を続けていた。 ・その間、復職に向けた生活リズムの改善や外出訓練といった復職に向けられた取り組みはなされなかった。 ・そうすると、2020年3月時点で、産業医が「復職可能な程度に回復しており、あるいは、復職後ほどなく回復する見込みがあるとは診断し難い」と判断したことは、同じ時点までのXさんの行動などや診療経過とも整合し合理性を有する。 そして裁判所は、Xさんが「治癒していない」と結論づけた。 以下は筆者の考えだが、Xさんが事前連絡なしで産業医との面談を欠席したことや、産業医から指示された生活リズム表を作成してこなかったことなども、「Xさんに復職の意欲があるのか」について、裁判所の心証に一定の影響を与えたように思う。
最後に
裁判所は、症状の改善状況や治療経過をつぶさに見て「復職可能な程度にまで治癒していたかどうか」を評価する。主治医に診断書を作成してもらったからといって、裁判で認められるわけではないし、会社の産業医の診断が主治医より強いということでもない。裁判所の判断は、あくまでフラットだ。 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡