柳楽優弥の「俳優としての求心力」。『ライオンの隠れ家』に実力派キャストが揃い踏みした背景
柳楽優弥の俳優としての求心力
――虐待・ネグレクトの問題が登場するので、柳楽さん主演の是枝裕和監督の映画『誰も知らない』(2004年)のイメージがあったのかと思いました。小森兄弟の異母姉・愛生役の尾野真千子さんも、坂元裕二脚本の『Mother』(2010年/日本テレビ)のイメージにつながります。 松本P:企画書の段階ではネグレクトの問題が大きく軸にはなかったので、それらの作品を強く意識したわけではなかったのですが、是枝さんの作品や坂元さんの作品は好きでずっと観てきたので、無意識的に刷り込まれているところはあるかもしれません(笑)。 ――本作は主要キャスト以外にも、尾野真千子さんや岡山天音さんら実力派の俳優たちがキャスティングされていることもドラマ好きから支持を集めています。 松本P:キャスティングは頑張りました(笑)。柳楽さんが主演ということで、やってみたいと思ってくださる方も多かったです。改めて、柳楽さんの俳優としての求心力を感じました。
尾野真千子なら、視聴者に衝撃を与えられる
――尾野真千子さんはどういう経緯だったのですか。 松本P:尾野さん演じる愛生は、企画書当初から1話の描き方的にもシークレットキャストでいきたいと思っていました。シークレットキャストというからには、視聴者が「うわ、すごい人が出てきた」と衝撃を受けてくれる人が良いと思い、そこで浮かんだのが、尾野さんでした。 尾野さんは、私が助監督だった『この世界の片隅に』(2018年)というドラマで、目の前でお芝居を観たことがあって、その記憶が忘れられないでいたのと、民放の連続ドラマにそれ以降は出られていなかったので、尾野さんが出てくださったら、視聴者に衝撃を与えられると思いました。最初は当たって砕けろのつもりで、オファーをしたら、企画を面白がってくださいました。
「子役サラブレッド」佐藤大空の「自然なまま」の魅力
――本作では、佐藤大空さん扮するライオンくんの自然な演技も注目されています。やんちゃで自由で、それでいてどこか寂し気で粗雑な印象もあって、難しい家庭環境が見える気がしました。どんな役作りをされたのでしょう。 松本P:もともとすごく天真爛漫な子で、物怖じしない、エネルギーがあり余っている元気な5歳なんですけど、お兄ちゃんが子役の先輩(佐藤遥灯/『#家族募集します』『THE3名様~これってフツーに事件じゃね?!~』など)で、お母さんも子役をやられていたという「子役サラブレッド」で、バックアップ体制が万全でした。 ただ、まだセリフのある役はほんの少ししかしたことがなく、お芝居のレッスンもしているわけではなかったのでまっしろな状態だったのですが、それが逆に良く、自然な5歳のままなのが魅力だなと思ったんです。 自然さが魅力ではありましたが、オーディション中は部屋を飛び出て走り回ったり、ぬいぐるみを投げて大変でした(笑)。撮影を想像したとき、もしロケで道路などに飛び出したら……という心配もありましたが、インするまでの3カ月間は、週2でTBSに来てもらい、信頼関係を作り、エネルギーをお芝居の方に持っていくことを「チーム大空」を作って徹底的にやりました。 ――ライオンくんを「天使扱い」せず、お涙ちょうだいにもしない。小森兄弟とライオンくんの「家族」としての距離感がすごく素敵です。 松本P:距離感という点でスタッフが参考にさせてもらったのは、みっくんの絵を提供してくださったASDの画家・太田宏介さんとお兄さんの信介さんです。お二方にはご両親はいらっしゃるんですが、大人の兄弟になってくると、気遣いすぎないほどよい距離があるというお話を聞いたり、お二人の本を読んだりして、リアルな距離感を教えてもらいました。 ◇続く後編【「韓国ドラマの『ジャンルレス』が羨ましかった」注目ドラマ『ライオンの隠れ家』松本Pの挑戦】では、ベテランと新人の脚本家の共同脚本という、珍しい手法で本作の脚本が制作された経緯について聞く。
田幸 和歌子(フリーランスライター)