「建設業の2025年問題」迫る危機 大工職人の高齢化と人手不足が招く未来
建設業が大きな岐路に立っている。大工職人の人手不足や高齢化などといった問題が山積する中、いよいよ「建設業の2025年問題」が襲来する。専門家は「この状況を放置すれば、経済や社会基盤への影響は避けられない」と警鐘を鳴らす。一体、何が起きているのか。 (社会部 栁原潤) 【画像で見る】後継者不在…深刻な業種は?
■押し寄せる熟練大工の「大量引退」
かつて、子どものなりたい職業の上位常連だった「大工職人」は、鳴りを潜めている。 「この市況で新築住宅を受注できてありがたい限りです。でも結局、大工が足らない。工期通りになんとか間に合わせようとしているんですが、現場が回らないんですよ。依頼がきても受注を制限せざるを得ない状況です」 東京都世田谷区にある工務店、桃山建設で専務取締役を務める川岸憲一さんが吐露する。 2025年、建設業界は、熟練の大工職人の大量引退が押し寄せる。若手の担い手も増えず、人手不足がいっそう進んでいく。長らく建設業界では、「職人の育成・確保が一丁目一番地」(住宅関連団体の幹部)としながらも、これまで数多ある施策は有効打に欠いている。 職人の人手不足を背景に、住宅や施設建築などの工期遅れや施工費用の上昇が続くなど、すでに問題が見え隠れしつつある。こうした「建設業の2025年問題」は待ったなしの状況にある。
■大工の平均年齢54歳超え「若手がいない…」
内閣府によると2025年は、いわゆる「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が全員75歳以上の後期高齢者になる。国民の約3人に1人が65歳以上で、約5人に1人が75歳以上となる。文字通り“高齢化社会”を迎えた。 総務省の最新の国勢調査によると、大工の就業者数は2020年時点で29.8万人。戦後ピークとなった1980年が93.7万人となり、約40年前と比べても約3分の1の水準だ。2040年には約13万人まで落ち込む見通しだという。 他の産業と比較しても高齢化が顕著で、2020年時点で60歳以上が12.8万人で大工全体の43%を占め、平均年齢は54.2歳まで上昇した。30歳未満は7.2%にとどまる。 企業が人手不足を解消するために人材派遣を利用するのは一般的だが、建設業では「現場作業に直接従事する労働者」は派遣が禁止されている。例えば、木造住宅を建てる大工職人は、法規制によって人材派遣ができず、また、転職エージェントなどの有料職業紹介の対象外となっている。 建設業界は人手不足に苦しんでいるにもかかわらず、大工を正規職員の社員として雇用する企業は僅かだ。多くが「一人親方」として囲い込む。なぜか。 当然、大工を社員として雇うと、毎月の給与や社会保険料、厚生年金などの固定費が発生する。繁忙期であれば効率よく働けるが、例えば、閑散期で工務店が新築住宅を受注できなければ、大工の手があまり、人件費が重くのしかかる。こうした状況から、大工の社員雇用は「経営リスク」と見なす風潮が根強く、若手の大工希望者が安定した雇用を得るのが難しいのが現状だ。 この商習慣が業界全体で常態化していて、識者からは「もはや問題意識すら持たない工務店が多い」という指摘もある。建設業界の構造的な課題が、持続可能な人材育成を阻んでいる面も否めない。 建設業の労働問題に詳しいクラフトバンク総研の高木健次所長は「技能承継の問題が大きい」と述べた上で、「大工技能を学ぶ公的な職業訓練校がここ20年で相次いで閉鎖、統合され全国で1/3近く減少している。そもそも大工技能を学ぶ場が減っている。そして、一人親方も弟子を取らなくなった。さらに企業から評価の高く就職率の高い大学の工学部、工業高校などが減り、文系大卒・普通科の学生が増えたことも影響している。大工が急加速的に減っていくこの状況が続けば、経済や社会基盤への影響も避けられない」と問題点を指摘する。