「戦争体験者が記憶を語れる最後のチャンス」…戦後80年へ「語り部」育成に力、国の補助4倍で1億円に
戦後80年となる年が明けた。戦禍を直接知る人が少なくなる中、厚生労働省は2024年度に始めた語り部活動への補助を25年度には4倍にする考えだ。戦没者の遺族らでつくる各地の遺族会は戦争体験の継承に向け、語り部の育成に力を入れている。(福井支局 浜崎春香) 【図解】「語り部」育成事業、2025年度予算の使い道
福井空襲
「福井市の方角を見たら、打ち上げ花火のように真っ赤で、恐怖で思わず手を合わせた」。昨年12月、福井県あわら市で開かれた県遺族連合会の研修会。副会長の平田修次さん(80)は会員ら約100人を前に、祖父がかつて語ってくれた1945年7月の福井空襲の様子を語った。
生まれる前に出征した父はフィリピンで戦死したこと、生活が苦しく、小学生の頃から牛乳配達や新聞配達で家計を支えたこと……。平田さんが自身の半生を大勢の前で語ったのは、この日が初めてだった。
県遺族連合会には語り部がいなかったため、昨夏、「平和の語り部推進委員会」を設置して育成に乗り出した。参加するのは50~80歳代の6人。平田さんはロシアによるウクライナ侵略のニュースなどに胸を痛め、「自分と同じような苦労をもう誰にもさせてはいけない」と手を挙げた。
6人は研修会で、お互いの幼少期や親族の体験を共有して講演内容を磨き、学校で子どもらに講演することを目指す。平田さんは「子どもらに戦争の悲惨さを伝えて、平和のために何ができるのかを考えるきっかけを作りたい」と話す。
全国で230人
日本遺族会が2023年に各地の遺族会に実施した調査では、語り部は全国で少なくとも230人。自主的に活動している人もおり、実数は不明だという。
戦後80年を見据え、同会は23年度から各地の遺族会と連携して育成に乗り出し、戦時中の記憶を喚起してもらうための「自分史」作りの支援などを行っている。
国も後押しをしようと、厚労省は24年度に初めて日本遺族会に2500万円を補助し、25年度予算案では4倍となる1億円を盛り込んでいる。語り部活動の人件費のほか、戦争体験者の証言の記録映像撮影などを念頭に置く。厚労省の担当者は「戦争体験者が自身の言葉で記憶を語れる最後のチャンス。彼らの経験を語り継ぐための活動をさらに充実させてほしい」と話す。