誇り高い戦士たちは戦後、国造りを怠り目の前の大金に手を付けた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(2)
ハシムは日本が支援する識字教育プロジェクトを進めるために保守的な農村地帯を回った。事業の目的や住民への恩恵を説明しても、地元の当局が機能せず事業が進展しないため、地域の支持を得られなかった。 「政府は汚職まみれで成果を上げられない。これは本当の民主主義ではない。国を破壊する何かだ」。ハシムはそう感じるようになった。「私も家族も友人たちも民主主義を歓迎した。だがそれはアフガンでは結果を出せなかった」 難民となったハシムは日本で生きていくために仕事を探している。将来への展望はなかなか開けない。それでも「私はアフガンに絶望した。帰国するつもりはない」と断言する。 ▽アフガニスタンは誰の国か 汚職に手を染めたのは「家族のため、民族のためにタリバンと戦った」人たちだ。元国防省幹部のシャヒドは「私たちは優秀な戦士だったが、戦後『国家のために』という使命感と愛国心を持てなかった」。そして汚職が横行した。多くの元戦士たちが「戦った自分たちの正当な取り分だ」と考えて目の前を流れる多額の公金を着服した。
シャヒドとハシムは異口同音に、不正が横行した理由をこう説明する。「アフガンを運営したのはアメリカと、アメリカが連れてきた名前も知らない政治家たち。私たちとは断絶しており、自分たちの代表とは思えなかった。ここが自分の国だとは思えなくなった」。パシュトゥン人、タジク人、ウズベク人など民族の枠を超えた「アフガニスタン人」という国民意識は育たなかった。 シャヒドは、今のアフガンに必要なのは民主主義ではなく「多民族をまとめ上げる強い指導者、責任ある独裁者」だと考えている。「息子の世代で実現すれば良い。私は疲れた。外国に逃げる」 インタビュー後、一緒に食事をしているとシャヒドに質問された。「あなた(木村)が遠いアフガニスタンまで来て取材をしているのは、それが日本のためになるからですか? 国家のために頑張っているのですか?」 答えに詰まった。私には日本という国家のために取材をしている意識はない。少し考えて「日本の税金を注ぎ込んだアフガン民主化が失敗した理由を伝えることは、公共の利益になると思います」と答えた。シャヒドにはうまく伝わらなかったかもしれない。私にとって「公共」とは「みんな」のことだ。この場合「日本」ともほぼ同義だろう。だがシャヒドにとって「公共」とは「タジク人」や「反タリバンの北部同盟」であり、必ずしも「アフガニスタン」とは同義ではないのだ。
シャヒドと別れた後に、南部カンダハルに向かいタリバン暫定政権の副報道官サマンガニに会った。サマンガニは「アメリカがもたらした『民主主義』はショーだった。多額の国際支援金が入ってきたが、実際に受け取ったのは特定の人物たちだけだ」と指摘した。「民主主義は言葉だけで実際にはアメリカが国を支配していた。アフガン人はそれを嫌い、私たちを支持した」。だからタリバンは復権した。サマンガニはそう主張した。(続く) アメリカはタリバン復権を後押しし、アフガニスタンの民意もそれを支えた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(3)