どよめく観客、そして劇的サヨナラ勝利…なぜ西武の辻監督は3番打者の森友哉にバントを命じたのか?
ロッテとの9回戦でも初回に主砲・山川に4試合ぶりの、そして5年連続で2桁に到達させる10号2ランで先制。幸先のいいスタートを切りながら、2回以降は立ち直ったロッテの先発・石川歩の前に沈黙。7回一死から中村が三遊間を割るまで、一本のヒットも放てなかった。 スコアボードに「0」が並んでいく間に、先発のザック・ニールが4回と6回に1点ずつを失う。昨年4月23日のロッテ戦から、先発した試合では19戦続けて負けていないニールは、最終的に6回98球でマウンドを降りた。球団外国人新記録となる、2年越しの14連勝は次回登板へお預けになったが、来日2年目の右腕に先発を託す試合は特別だと辻監督は力を込める。 「ニールが投げると負けない、という神話だけはずっともっていきたいと思うので」 7回は怪腕・平良海馬、8回はセットアッパーのリード・ギャレット、9回は守護神・増田達至と勝ちパターンの救援陣をつぎ込んだ継投には、何がなんでも勝つという指揮官の執念が込められていた。前夜も登板した3人へねぎらいの言葉をかけながら、指揮官は手にした勝利の価値を強調した。 「こういう勝てる試合で(確実に)勝たなければいけない、というところで大変な思いをさせてしまっていますけど、勝利がそれを消してくれると思います」 言うまでもなく、森に出した送りバントのサインにも、この一戦は絶対にものにする、という辻監督の執念が反映されていた。クリーンアップを担い続けながら、なかなかエンジンがかからない状態に歯痒さを募らせてきた外崎は、歓喜のサヨナラ勝ちを勢いに変えたいと力を込める。 「本当にみなさんが思っている通りまだまだというか、もっと打たなければいけない、という思いが自分のなかにもあります。この1本をきっかけにして、もっともっと上を目指してやっていきたい」 それでも、梅雨のようにバットが湿り気味だった攻撃陣が源田の執念と気迫、森の自己犠牲、そして外崎の必死さを介して“線”になった。豪快に打ちまくる昨シーズンまでの“線”ではないものの、2位の楽天に0.5ゲーム差、さらに首位のソフトバンクに1ゲーム差に迫るサヨナラ劇は、完全復調まで我慢を強いられるかもしれない今後の連戦をしぶとく勝ち抜いていくための羅針盤になる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)