「はて?」が許されない『燕は戻ってこない』の女性たち 『虎に翼』と同時に描かれる意義
朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)が、主人公の寅子(伊藤沙莉)が「はて?」と疑問を呈しながら男社会の日本法曹界を開拓する物語ならば、同じく現在放送中の『燕は戻ってこない』(NHK総合)は、「はて?」というすべを持たない女性たちの物語ではないだろうか。卵子提供のアルバイトを持ちかけてきた主人公・リキ(石橋静河)の同僚のテル(伊藤万里華)は「だから、うちらはわかることだけ考えてりゃいいの」と言った。目の前にあることだけを考えて、難しいことは考えを放棄する。その結果、厳しい現実を受け入れるしかない彼女たちの姿は、まさに「はて?」の逆を行くものだ。 【写真】リキ(石橋静河)の隣人男性役であまりにも怖い酒向芳 29歳のリキは、5年前に北海道から上京してきたものの、現在は手取り14万の病院事務の仕事をしながら、なんとかやりくりをする毎日を過ごしている。ある日引っ越しを余儀なくされたリキは、以前話していた“卵子提供”でまとまった金を得ようと、生殖医療エージェント「プランテ」を訪れる。しかし、29歳のリキに提示されたのは卵子提供ではなく、サロゲートマザー“代理母”の選択肢だった。 最初に言っておくと、2024年現在の日本では、代理母による出産は認められていない。その是非がいまも議論されつづける中で、リキのことを“お金がほしくて代理母になった女性”と聞くと、眉を顰める人ばかりだろう。 だが「同じアパートの住人である男に付き纏われて、家を出るしかなくなった」という彼女の背景を知ればどうだろう。事の発端はたった一度、迷惑に置かれた男の自転車を移動させただけ。何度頭を下げても許してもらえず、その弱みにつけこんで、男がいやらしい視線を向けるようになったのは、間違いなくリキが“か弱い若い女性”だからだろう。警察も取り合ってくれず、頼れるパートナーもいない。女に生まれたことの嫌悪感と絶望感に襲われる中、「一度くらい女で得した~って笑おう?」というテルのなにげない一言が、代理母になる選択とリキを結びつけてしまうのである。 『燕は戻ってこない』の惨憺たるところは、リキのように立場の弱い女性が、あれよあれよという間に、強者たちに都合良く消費されそうになっていることだ。ここでいう“強者”とは、代理出産を依頼した有名バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)やその母・千味子(黒木瞳)であり、リキが代理母になる契約をしたことで莫大な紹介料を得るエージェントの青沼(朴路美)であり、この歪な構造を容認している“社会”そのものともいえるだろう。 さらに恐ろしいのは、代理母の件に対して、強者たちが口を揃えて“リキが望んで選んだ”と主張することだ。基は「その人はさ、自主的に代理母やりたいって申し出たんだよね? 俺たちは対価を払う。お互いWin-Winなんだよね?」と言っていたが、この関係性はほんとうにWin-Winで、対等なビジネスなのだろうか。青沼は「大石さん、“あなた”が決断してくださいね」と手を取っていたが、リキに決定権があったとほんとうにいえるのか。