「はて?」が許されない『燕は戻ってこない』の女性たち 『虎に翼』と同時に描かれる意義
たった二つの選択肢しか持つことが出来なかったリキ(石橋静河)
たしかにリキは誰かに強制されたのではない。「古いアパートに住みつづけながら嫌がらせに耐える」か「代理母になる」かを天秤にかけ、彼女自身が後者を選んだ。いや、選ぶことができたというべきなのかもしれない。サロゲートマザーになれるのは20代までと決まっていたからだ。 しかし、物語の受け手である私たちがまず目を向けるべきは、リキがたった二つの選択肢しか持つことが出来なかった、という点ではないだろうか。春画家のりりこ(中村優子)が指摘した通り、他になにも売るものがないから、リキは卵子と子宮を売る覚悟を決めたのだ。「代理母になる選択しかなかった」という大前提が、強者たちの視点からすっかり抜け落ちているように感じる。 奨学金の返済で首が回らず、「エッグドナーになって卵子提供をする」か「AVに出る」か「自己破産する」しかないと悩んでいたテル。そして「代理母を受け入れる」か「子どもを諦める」しかない悠子(内田有紀)もまた、今作においてはリキと同じ“選ばざるを得なかった人”だ。彼女たちは疑問に思うことも、立ち止まることさえも許されない。寅子が生まれた時代から100年先を優に超えた今もなお、強者たちから「はて?」を奪われた女性たちは存在している。 『燕は戻ってこない』と『虎に翼』、この巡り合わせは偶然なのかもしれない。けれど、寅子が女性たちの願いを背負って一歩ずつ歩みを進めようとしているその裏で、リキのような女性の物語が紡がれている意味を、改めて考えたいと思う。
明日菜子