日産の下請けいじめの「深い闇」…いばらの道でも系列メーカーが模索すべき「自主独立の道」
4486億円と危機的な赤字
というのは、この時期は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや自動車用の半導体の供給不足、市場占有率(シエア)低下などに、大手の割に収益力が弱い日産が苦しんだ時期と重なっているからだ。 実際の業績を見ても、日産が違法な値引きを強要し始めた2021年1月は、残り2カ月となった2021年3月期の最終損益が前期(6712億円の赤字)に続いて巨額の赤字に沈みかねないことが判明していたはずだ。終わってみれば、この期は、4486億円と危機的な最終赤字に低迷した。 その後も、3年ぶりの黒字転換を目指した(2022年3月期)り、増益を目指した時期(2023年3月期)に当たる。ところが、日産の最終利益の水準は2100億円から2200億円程度と、同じ時期のトヨタ自動車(いずれも2兆円台後半)の10分の1にも満たない低水準だった。 つまり、日産は、自社の苦境の中で、少しでも収益を改善しようと、なりふり構わずに下請けいじめに走ったと推測されるのである。 そして、勧告後も、部品代金などの「減額の要求が変わらず続いている」と報じたのは、テレビ東京の経済報道番組「ワールドビジネス・サテライト」だ。5月10日付の同番組が、勧告の対象になった36社以外の下請け部品会社を独自取材したところ、「減額の強要が変わらず続いている」と報じたのである。 歴史的に見ると、筆者が経済紙の新人記者で、自動車及び自動車部品メーカーを担当した1984年当時も、部品メーカーは、下請けいじめに苦しんでいた。トップ人事や事業計画、価格戦略などほぼ全ての面で、元受けの完成車メーカーの意向に沿った対応を求められていたのである。 特に、完成車のモデルチェンジがあった翌年は、下請け企業にとって鬼門だった。というのは、「今年は、金型などの投資が不要なはずだ」といった名目で、完成車メーカーの大幅な値下げ要求に苦慮するところが多かったからだ。当時、筆者は、そうした企業の業績予想を記事にするため、担当していた約60社を繰り返し取材したものだ。すると、筆者の見立てほど利益が上らない会社が多く、問い質すと、異口同音に値下げ要求の厳しさを明かされたのである。 ただ、そうした中でも、トヨタ、ホンダ、日産の完成車の上位3社の系列に限ってみると、日産系列の多くはすでに勢いを無くしていた。 どういうことかと言うと、日産系の下請けメーカー各社は、トヨタ、ホンダ両社の系列各社と比べて、発注量の少なさと単価の安さの二重苦に直面、経営・財務面での基礎体力がすでに弱体化し始めているところが少なくなかったのである。 例えば、ヘッドランプなどの照明3社は当時、トヨタ系の小糸製作所は経営基盤が強固で防衛産業に転用可能な基礎技術の研究開発をしていたし、ホンダ系のスタンレー電気も意気軒高だった。ところが、日産系の市光工業は、同じ業態とは思えないほど、担当役員に覇気の感じられないメーカーだった。 そうした中で、市光工業は1990年代になって、日産系列から離脱し、フランス企業の傘下に入り、グローバル市場での納入先の拡大に賭けたものの、今なお、脱日産系列が大きな成功を収めたとは言い難い状況だ。 参考までに、直近の1株当たり当期純利益を記すと、小糸の130円93銭(2024年3月期)、スタンレーの162円41銭(同)に対し、市光は81円53銭(2023年12月期)と大きく後れを取っている。つまり、自主独立路線を追及して20年以上の歳月を経ているにもかかわらず、今なお、かつての系列時代に生じた格差を埋められずにいるのが実情なのである。