財務省書き換え疑惑で注目、国政調査権とは 坂東太郎のよく分かる時事用語
過去に国政調査権を発動した主な例
1978年に発覚したダグラス・グラマン事件は、すでに東京地検特捜部が捜査に入った後に関与が疑われた総合商社の日商岩井副社長を証人喚問した際も、「捜査中の案件で国政調査権を行使するのはいかがなものか」という疑問が一部に起きました。東京地裁は「行政作用に属する検察権の行使との並行調査は、原則的に許容されている」として「原則行使可」の判断を示しました。 1992年、5億円のヤミ献金疑惑「東京佐川急便事件」が勃発。当時の自民党を牛耳っていた「金竹小」こと金丸信、竹下登、小沢一郎の各氏のうち金丸議員が辞職に追い込まれた後で、残る竹下、小沢両氏も証人喚問されましたが不発。政治ショーに過ぎないのではないかという批判も起きたのです。 国会法104条による「記録の提出」例としては、東京協和信用組合と安全信用組合が不正融資をしていたとされるいわゆる「二信組事件」で預金者リストの提出を迫られ応じたケースがあります。 記憶に新しいところでは2010年に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件があります。那覇地検に映像の提出を求めました。 今回のケースで最も問われているのは、国会のあり方です。森友問題は安倍晋三首相およびその周辺が何らか関わったのではないかと疑う声があります。安倍首相は行政府トップで与党第一党の自民党総裁。だから国会で多数を占める自民党議員が国政調査権行使に及び腰になる気持ちは分かります。しかし立法府の矜持(きょうじ)を失ってしまっては、三権分立つまり統治機構そのものに主権者国民は不信感を抱きましょう。 何しろ1つの行政機関に過ぎない財務省が書き換えた決裁文書を、真性のものであると国会議員全員をだました可能性があるのですから、怒らなくてどうするという話です。本来は。自民も財務省へ真相を明らかにせよと迫っている点では野党と変わりません。国権の最高機関の一員であるという誇りを示してもらいたいところです。
--------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など