アフリカの異常気象による「最悪のシナリオ」が現実に… 気候変動→資源減少→紛争増加 日本も他人事ではいられない
▽紛争増加の原因にも… 気候変動に対して脆弱な国は一般的に貧しく、これまでも食料や水の不足がたびたび問題になってきた。こういった国では気象災害の増加で資源がさらに希少になり、紛争が増加するとの懸念も高まる。 国際通貨基金(IMF)はアフリカの貧困国を念頭にした予測を公表している。 「最悪のケースでは2060年までに、一部の国で人口に占める紛争犠牲者の割合が14%増える」 ケニアでは実際、〝争いの芽〟が生じている。干ばつがあった北部マルサビットを訪れてから約8カ月後の2022年10月。200キロ南下したバファロー・スプリングス国立保護区では、地元の自然保護団体職員らが連日、車の荷台から大量の干し草を下ろし、絶滅危惧種のグレビーシマウマに餌付けしていた。 団体の生態学者デービッド・キミチさん(37)によると、細かいしま模様が特徴のこの種は、ケニアを中心に約3千頭が野生で暮らすが、保護区とその周辺では2022年、栄養失調が原因とみられる死骸が10月末までに60以上見つかった。国立保護区がある中部イシオロ郡は、マルサビットより日照りの深刻度は小さかったにもかかわらず、辺り一面、植生が失われている。
キミチさんがその理由を説明する。「干ばつが深刻な北部の住民が家畜の放牧にやって来たことで、一気に不毛の地になってしまいました」 ▽「不公平ただせ」、いらだつ途上国 気候変動対策を話し合う国際会議などでは近年「気候正義」というキーワードをよく聞くようになった。簡単に言い換えると次のようになる。 「気候変動が進んだのは長期にわたり温室効果ガスを大量排出してきた先進諸国の責任だが、甚大な被害を受けているのは発展途上国だ。この不公平をただそう」 貧困国が多いアフリカではとりわけ、気候正義を意識したような発言が聞かれる機会が増えた。 「空っぽな約束だけで傍観してきた」(赤道ギニアのヌゲマ大統領) 「連帯と信頼を崩す」(タンザニアのサミア大統領) アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで2023年11~12月に開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)。首脳級会合ではアフリカ各国首脳から先進国へのいらだちをあらわにする言葉が相次いだ。背景にあるのは、先進国側の姿勢に対する怒り。2020年までに低所得国に、気候変動対策資金を年1千億ドル拠出すると先進国側は約束していたが、守られなかった。
中央アフリカのトゥアデラ大統領は「アフリカは第一の被害者だ」と断言し、先進諸国に対して、アフリカの気象災害に対する補償を求めた。 COP28で補償は議題にならなかったが、一方で「損失と被害」基金の運営ルールが採択された。この基金は、気候災害に見舞われた途上国に対する復興支援に当てられる。 気象災害激化という現実を前に、国際社会では気候変動対策について、アフリカ諸国を始めとした途上国の意見をより真剣に聞かなければならないという雰囲気がこれまで以上に強まってきたようだ。 (※登場人物の年齢は取材当時のものです)