村上春樹原作の叶わぬ恋の物語を新たなスタイルで。KAATが挑む日英国際共同制作『品川猿の告白』
2024年11月、KAAT 神奈川芸術劇場はイギリスの現代演劇を代表する劇団ヴァニシング・ポイントとの日英国際共同制作で、村上春樹の小説を原作とした『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』を上演する。これはKAAT 神奈川芸術劇場が2021年度より取り組む「カイハツ」プロジェクトのひとつとしてスタート、長期にわたるディスカッション、横浜とグラスゴーで行われたワークショップを経て実現する、本格的な日英国際共同制作公演となる。 【全ての画像】『品川猿の告白』キャスト一覧ほか 劇団ヴァニシング・ポイントはスコットランドのグラスゴーを拠点として国際的な活動を続け、“英国で最もユニークな劇団の ひとつ”(英ガーディアン誌)と評される劇団。KAAT 神奈川芸術劇場の長塚圭史芸術監督は、文化庁海外研修制度でロンドンに滞在していた時に偶然観劇、彼らの作品手法に衝撃を受け、長い間共同制作の機会を模索していたという。 今回上演されるのは、世界で最も著名な日本人作家である村上春樹の短編小説『品川猿』、『品川猿の告白』を原作とした、幻想的なコミック・ミステリー。人間の女性に恋し、思いを遂げるためにその名前を盗んでしまうという、叶わぬ恋の物語をベースに、他者への強制、罪と救済、記憶、そしてアイデンティティといった多層的なテーマを内包する。 演じるのは、日英の俳優たち。演劇界での今後ますますの活躍が期待される那須凜をはじめ、伊達暁、田中佑弥、家納ジュンコ4人の日本人俳優と、劇団ヴァニシング・ポイントのクリエイティブ・アソシエイトを務め、同劇団の数々の作品に出演してきたサンディ・グライアソンほか、エリシア・ダリ、サム・ストップフォード、アイシャ・グッドマンと人形遣いエイリー・コーエンという5人の英国人俳優。日英二カ国語が飛び交うダイアローグと独特な視覚的言語を用いて描かれる舞台。空間造形の中に字幕を組み込むことで多言語での上演を可能にした、新たなスタイルで観客を引き込んでいく。 2024年11月から12月のKAAT 神奈川芸術劇場での上演後、2025年にはスコットランドのグラスゴーでの公演に加え、英国でのツアーも予定。KAAT 神奈川芸術劇場のこの大きなチャレンジは、これからの創作スタイル、また国際性と地域性を併せ持つ公共劇場のあるべき姿を見つけ出す第一歩としても注目される。 なお、7月15日(月・祝)より、本作と『リア王の悲劇』を対象とするKAAT神奈川芸術劇場2024年度メインシーズン「某(なにがし)」<1期>シーズンチケットが発売中。開幕作品となる『リア王の物語』は、いま最も注目される演出家のひとり、藤田俊太郎が、河合祥一郎による新訳のフォーリオ版を日本で初めて舞台化すると話題に。 長塚芸術監督が「少しでも気軽に劇場に足を運んでいただきたい。そしてもっともっと当劇場のラインアップを楽しんでいただきたい。新しい出会いを生み出したい」と昨年から導入したシーズンチケット制度、この機会に利用してみては。