【大学トレンド】「工学系女子」を増やす…女子大のねらい 「力」ではなく「知のエンジニア」の育成を
女性エンジニアの育成が求められていますが、理工系の分野に進む女子学生はまだまだ少ないのが現状です。こうした状況を打開しようと、大学側も女性エンジニア育成のためにさまざまな取り組みを行っています。 【写真】女子大の「就職力」なぜ高い? ランク上位入りした学校の特徴
大きな注目を集めたのが、2022年4月に誕生した奈良女子大学の工学部です。女子大初となる工学部の設置へと踏み切った背景を、⻑谷圭城・工学部教授は次のように話します。 「奈良女子大学には『女性が活躍する場を広げる』という、女子大としての使命があります。その点で、工学分野における女性比率の低さは大きな課題です。エンジニアの世界は、これまで日本を支えてきた機械や電気などの『力のエンジニア』から、ITやAIなどの『知のエンジニア』へと変わっています。そうした分野で女性エンジニアが増えて男女差がなくなれば、日本社会が変わっていくことにつながるだろうという考えがありました」 工学部新設にあたり、全国の女子高生にアンケート調査を実施し、「工学に興味はありますか」と質問したところ、4分の1が「興味がある」と回答しました。その中には文系クラスの生徒もいたそうです。それなのに、なぜ工学部の女子学生が少ないのでしょうか。 「調査の中で『なぜ工学部に進学しないのか』と理由について聞いたところ、『女子が少ないので工学部に進学する行くイメージがわかない』『工学部は学科やコースが細かく分かれていて本当に自分に向いているのかもわからないし、将来のイメージがわかない』『高校に工学部出身の教員がいないので、工学部での学びをイメージできない』といった声がありました。高校の文理選択の段階で工学に対する理解が深まれば、工学部に進む女子やエンジニアを目指す女子が増えるのではないか。もっといえば、中高生の段階から工学に興味を持ってもらうことが非常に重要ではないかと考えました」(長谷教授)
女子中高生にエンジニア体験が人気
そこで奈良女子大学では、23年7月から女性エンジニア養成プログラム「Women Engineers Program」をスタートしました。多くの企業の協力のもと、大学の枠を超え、中3、高校生と大学生を対象にさまざまなワークショップを参加費無料(交通費・宿泊費支給)で実施しています。金属加工の体験ができる講座や、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントのロボットトイ「toio™(トイオ)」を使って最新ロボットの仕組みや魅力に触れられるものなど、7つのワークショップを用意したところ、110人程度の定員に33都道府県から190人近い申し込みがありました。 「工学部設置に伴い、多くの企業から教育研究に支援をというお声がけがある中で、中高生にも工学に触れる機会を提供していこうと始めました。同じ興味を持つ仲間と集まって活動することでコミュニティーの拠点が形成できないかとも考えています。このワークショップで出会った生徒同士で大学受験などの情報交換をしたり、将来一緒に仕事をしたりする関係を育んでもらえるといいですね」(長谷教授) 参加した中高生からは、「初めて会う仲間たちと、レベルの高い目標に挑戦してクリアするのはとてもやりがいがあった」「みんなで役割分担してやっていくことが面白かった」といった声が寄せられ、好評だったといいます。 大学としても手応えを感じていると長谷教授は言います。 「中高生向けのワークショップの参加者は、中学3年から高校3年まで学年はバラバラですが、同じ興味関心のもと集まっているので、本当に楽しみながら学習しています。出会って半日ぐらいで昔からの友達のようにワイワイとものづくりを進めています」 「Women Engineers Program」は、来春も開催される予定です。