大型箱モノ事業、全国で宙に…100億円を積み増しても「応札ゼロ」 新体育館だけじゃない「アレもコレも足りない」現実
人件費や建築資材の高騰が続き、鹿児島県の新総合体育館をはじめ公共施設事業の入札不調が全国の自治体で相次いでいる。コストがどこまで上昇するか見通せない中、各自治体は事業費の増額や規模縮小などの判断を迫られている。 【写真】〈関連〉公共施設の入札不調…全国の主な事例を一覧表で分かりやすく
鹿児島県は、鹿児島市の鹿児島港本港区ドルフィンポート跡地に新体育館を計画。事業費削減のために民間資金を活用した社会資本整備(PFI)手法を初めて導入し、設計、建設から運営、維持管理までを包括発注する。 2年前の基本構想から68億円増えた313億円の事業費で4月に入札公告した。5月に県内外の事業者でつくる2グループが入札の意向を示したが、9月の入札日にいずれも辞退届を出し、不調となった。 4月の入札説明会に参加した1グループを含む3グループへ県が10月末に聞き取りしたところ、物価や人件費の高騰で313億円に収まらなかったという。聴取結果を踏まえ、増額や事業内容、整備・運営手法の見直しを視野に入れる一方、規模や機能の見直しは「基本的に困難」としている。 全国の自治体も腐心している。名古屋市は国際会議場の施設改修に加え、展示場と立体駐車場の新設を計画。PFIを採用し、2022年に事業費426億円で入札公告したが、不調になった。国が公表する公共工事設計労務単価などをもとに人件費と資材の高騰分106億円を積み増し、5カ月後に532億円で再公告。それでも応札者はいなかった。
市は財政上の理由からさらなる増額は厳しいと判断し、展示場と駐車場の新設を断念。PFIから運営と維持管理を外し、設計と建設のみを担うデザインビルド(DB)方式に変更した。物価高が続く中、事業者が長期間管理するリスクは高いと考えたという。23年に451億円で公告し、入札された。担当者は「二度目の入札不調は衝撃的だった。物価高が続けば事業費がさらに上がる可能性もあった」と明かす。 神戸市のスポーツ施設「ポートアイランドスポーツセンター」は23年10月に入札不調になった。聞き取った事業者は要因に建設業界の人手不足も挙げる。担当者は「人手不足の解消時期が分からず、1年たった今もいつ再公告するか決められない状況だ」と話す。 沖縄県でも今年9月、国際会議や展示会などの「大型MICE」の入札で参加事業者が現れなかった。検証委員会をつくり、不調の要因や方針を協議する。 自治体の公共工事に詳しい上智大学の楠茂樹教授は「自治体財政が厳しい中、当初計画のまま事業費だけを増やすのは厳しい面もある。計画見直しは、公共施設としての利便性や福利厚生の観点から、優先順位をつけて考えるべきだ」と説明。「業者に落札可能な額も示す必要がある。各自治体には難しいかじ取りとなるだろう」と指摘した。
南日本新聞 | 鹿児島