「千葉」が地質時代の名前になる?「チバニアン」から考える地磁気の変化
千葉県の地層が注目される理由
冒頭でも紹介した「地質年代」とは、地球の歴史を地層や岩石、当時の環境などの記録をもとに分けたものです。19世紀、20世紀などのように数字で機械的に分けたものというよりは、平安時代、室町時代のようにその時代の特徴に基づいて分けたものです。 具体的には、地球が誕生してからの46億年は現在、115の「地質時代」に分けられています。「ジュラ紀」や「白亜紀」などもその1つです。そして、各時代の境界とその前後(地層的には上下)の地層の関係性について、地球上で最もよく観察できる場所を「国際標準模式層断面および地点(以下、GSSP: Global Boundary Stratotype Section and Point)」と呼びます。例えば、先ほどの「ジュラ紀」はフランスとスイスの国境付近にある「ジュラ山脈」中の地層がGSSPとなったので、「ジュラ紀」と命名されました。 日本の研究チームが申請している「チバニアン」は、千葉県市原市にある地層 に注目したものです。その地層がGSSPにふさわしい場所と考えているわけです。 GSSPとして認定されるには、対象の地層がいくつかの条件を満たす必要があります。今回の地層の場合、まず大前提として「地磁気の逆転が地層中に記録されている」こと。千葉県の地層中にはこの記録があっただけではなく、その逆転がいつ起こったのかを知る重要な「手がかり」もあったのです。
それは地磁気逆転の境界付近にあった「白尾(びゃくお)火山灰」の存在です。火山灰は地球の歴史から見れば、とても短い時間で降り積もります。つまり、火山灰がいつ降ったのかを調べることで、火山灰を含む地層がいつ堆積したのかをかなり正確に知ることができます。地層が堆積していた場所の近くに偶然にも火山があり、かつ地磁気の逆転が起こった時期に噴火をした。さらに、その火山灰を含んだ地層が現在まできれいな状態で残っていて、しかも、地表の近くにあるので観察ができる──。そんな複数の偶然が重なり合った奇跡としか言いようがない場所が千葉県にあったのです。 この「白尾火山灰」を年代測定したところ、約77万年前と分かりました。これは、従来の地磁気逆転が起こったと考えられていた年代よりも約1万年遅い年代でした。火山灰のおかげで、逆転の時期がより正確に分かったことは重要な意味を持ちます。実は、最後の逆転が起こったこの境界の年代は地質年代を考える際の一つの基準となっています。そのため、この年代の数字が変わることで、他の地質時代の境界年代も変わってしまう可能性があるのです。小さな数字の変化ですが、 これにより人類が持っている地球に対する知見に大きな影響を与えてしまうかもしれません。 ちなみにチバニアンと呼ばれるかもしれない地質年代の若い方、つまり約12万6000年という年代は検討中の数字で、この数字ものちのち変更される可能性があります。