堕ちたら抜け出せない恋の沼。切なくてエモい恋愛オムニバス漫画『この夜につなぎとめられるだけの愛を込めて』をレビュー
叶わない恋ならば、こんなに苦しいならば、いっそ好きにならなければ良かった。そんな恋愛の苦しさをオムニバス形式で描いた『この夜につなぎとめられるだけの愛を込めて』(あめみくろ/KADOKAWA)。切なくてエモい恋模様が読者の胸に刺さり、SNSを中心に多くの共感の声を集めた。
本作では、恋の沼に堕ちた様々な女の子たちが登場する。体だけの関係と割り切っていたのに、気がつくと好きになっていた…セフレに恋をしてしまう女の子。心だけはつながれない曖昧な関係でも、好きだから一緒にいたい切ない葛藤が描かれる。その他にも、好きな人からの「かわいい」「似合ってる」の言葉に期待するが、振り向いてはもらえない女の子や元カレへの未練を断ち切れず、戻れない過去から進めない女の子、元カノを忘れられない男の子の話も描かれる。恋の形や状況は様々だが、みんな叶わぬ想いを抱えながら生きているのだろう。期待と失望の温度差は、読んでいて胸が苦しくなる。 少女漫画やお伽話のようなハッピーエンドとは違い、現実の恋はそう上手くいかない。他の誰でもない「私はあんたと幸せになりたかったんだよ」という届かぬ想いを抱えたまま、生活は続いていく。本作は残酷なほどにリアルな恋を描くからこそ、一層切なさが際立っている。 例えば、元カレを忘れられない女の子の話にはこんな場面が描かれる。お泊まり後、夕方に食べに行った近所のラーメン、別れても消せない2人の写真、別れた後に新しい人に出会う度に増していく虚しさ…。あるあるな状況に、共感できる人も多いのではないだろうか。その他にも、日常生活を切り取ったような生活感溢れる描写や感情の揺れ動きが多く、思わず感情移入してしまう。 片想いに悩む人、昔の恋が忘れられない人、都合の良い関係に疲れてしまった人…恋に悩む全ての人にぜひ読んでほしい一冊だ。きっと、あなたの切ない恋心にそっと寄り添ってくれるだろう。 文=ネゴト / fumi