スバルが次世代アイサイトにAIを活用。採用されたのはAMD製の高性能 SoC
カメラ画像には莫大な情報が詰まっている
とくにカメラは対象の形状を認識しやすい特徴を持ち、たとえば歩行者であるのか自転車であるのか、さらには車両の形状までも把握できる。そのメリットは大きい。ただ、この能力は可視光環境下での話だ。これが雨が降ったり、日が落ちて明るさが不足すれば、自ずとセンシング能力は落ちてくる。 一方でミリ波レーダーは、対象の形状を把握するまでの解像度を持つことは難しいが、昼夜を問わず安定してセンシングでき、雨に対しても強みを発揮できる。そのため、理想的にはカメラとミリ波レーダーなどを組み合わせて使うことになる。しかし、そこで問題となるのがコストだ。スバルは新世代アイサイトで近距離のミリ波レーダーを搭載したが、これを遠距離まで対応させるとなれば相応のコストがかかり、それは車両価格に跳ね返る。 そこでスバルが次なる手法として採用するのが、ステレオカメラを採用した上でより低コストで対応できるAIの活用である。AIはディープラーニング、深層学習などで学習した膨大なデータを基に、推論・推測すべき対象が何であるかを瞬時に判定できる能力を持つ。たとえば、路上に横たわっている人がいた場合に、カメラだけでは道路と同化してしまい判別が難しい。しかし、ここにAIを活用すれば、それが人として認識できるようになるのだ。 また、ADASによるセンシングでは、白線を認識することで制御することが多いが、現実には白線がない道路は少なくないし、さらに言えば積雪路ではセンターラインどころか路面からの情報は何も得られない。スバルによれば、こうした状況下でもAIを活用することで走行できるようになり、しかもスバルでは自動運転に欠かせないと言われてきた高精度マップさえ不要だという。これはまさに、人間がハンドルを握っている状況に近い。
莫大な情報から必要なものを取り出すAI
一方でカメラによるセンシングでは得られる情報量が極めて多いため、その中から必要な情報を抽出するには高い処理能力が求められる。そこでAMDが開発したSoCの出番となる。 次世代アイサイトに使われるチップは「AMD Versal AI Edge Series Gen2」。スバルによればこのSoCは「前世代と比べて3倍の処理能力」を持つ一方で、アプリケーションプロセッサー(APU)のほか、回路構成を電気的に書き換えられるFPGA(Field Programmable Gate Array)などを搭載し、これが高いカスタマイズ性を発揮する。スバルとしては、採用に当たって独自に性能を上げたいところと、逆に落としたいところがあったという。つまり、この高いカスタマイズ性がAMD製SoCが採用に至った理由なのだ。 スバルではすでにこのSoCの試作チップの評価試験に入っており、目指す将来のロードマップに必要な要件を満たしていることを確認。今後は必要な内容にカスタマイズしながら最適化を図っていく計画だという。新世代アイサイトに搭載される時期については「2030年までに」とのことだが、スバルとして「2030年死亡事故ゼロ」を目指している中で、その達成に寄与できるタイミングでの搭載となるのではないだろうか。次世代アイサイトがどんな制御を見せてくれるのか、楽しみに待ちたいと思う。