動物病院開業したが資金繰りに苦労、「24時間365日診療」で差別化…「隙間時間」に新聞配達も
熊本市の竜之介動物病院・院長の徳田竜之介さん(63)は2016年の熊本地震発生直後、ペットと飼い主を一緒に受け入れる避難所を院内に開設した。預かったいくつもの小さな命を救ってきた獣医師の信念は「動物の治療を通じて、飼い主の心もケアすること」。この思いを胸に今も第一線に立ち続ける。 【写真】病院をペット同伴避難所として開放した徳田さん。「動物と飼い主に寄り添い続けていく」(1日、熊本市中央区で)=中島一尊撮影
首都圏で獣医師として5年間働き、1994年に故郷の熊本市へ戻った。
「帰ってくるけん」。帰る前に市内で畳店を営む同級生の本田章浩さん(62)に連絡をしていた。本田さんの自宅に半月ほど世話になり、開業に向けて一緒に不動産業者を回った。
準備した開業資金は約50万円。父は大学時代にがんで他界し、母も関東地方に転居していたため、家は引き払っていた。「まずは住所を移さないと」。不動産業者に断られ続け、本田さん方を出た後は、父の墓がある市内の墓地で車中泊をしながら物件を探した。事態が好転したのは1か月がたった頃。愛犬家の不動産業者と出会い、事情を説明した。「熊本に獣医師が来てくれるのはありがたい」。ようやく開業にこぎつけた。
開業後は資金繰りに苦労した。そこで他の動物病院と差別化しようと思いついたのが「24時間365日診療」。表向きの診療時間は午前7時~午後11時だったが、電話が鳴れば時間に関係なく対応した。「いつでも診てもらえる」と評判になり、来院者は増えていった。
診療に電話対応、来院者の受け付け……。開業から半年ほどは、すべてを一人で切り盛りした。当然ながら、次第に業務が滞るようになった。スタッフを雇いたくても、資金がない。一方で24時間診療もやめたくない。診療の依頼が少ない午前3~6時の「隙間時間」にできる副業は何か――。ピッタリだったのが新聞配達だった。
動物病院と新聞配達の収入もあり、開業から約半年後、ようやく看護師1人を雇い入れることができた。ただ、病院経営が軌道に乗るまでの約1年間は、新聞配達も続けた。