【ライブレポート】「原因は自分にある。」は新たな高みへ。彼らが描く『架空のアウトライン』は進化の予兆
ストーリーテラーから贈られる1000年後の物語
『架空のアウトライン』後章は、桜木のボーカルと打鍵音が印象的な『545』からスタート。ピアノサウンドに合わせた優雅なダンス、その合間に杢代と小泉が肩を組み合えば、長野と大倉の伸びやかな声が混じり合う。武藤から桜木、そして小泉へと、まるでバトンが渡されるように繋がっていく歌声は、ピアノアレンジされた『ラベンダー』へと帰着する。 地から天へと光の粒が浮かび上がるメインモニターの映像は、愛にはなれず星に変わった無念の恋を象徴しているのだろうか。情感を込めてしっとりと歌い上げる桜木と杢代の思いを受け取るように、長野と武藤が担うサビが会場に轟く。 少しずつスモークが這い、スポットライトがメンバーを照らす幻想的な舞台は、ピアノの一音を余韻に残したまま、見守る観測者たちの期待をくすぐる。 『545』から『ラベンダー』と、げんじぶの表現の幅を示唆するバラードナンバーで身を揺らしていた観測者。すると、メインモニターに一冊の本が映し出され、眩い光とともに一枚ずつペラリ、ペラリとページが捲られていく。そこには、げんじぶ一人ひとりの写真が。 次の瞬間に登場したのは、城の王子然とした高貴な衣装から一転、白と黒のモノトーンに変化したメンバーたち。それぞれ対極に位置する色をまといながら一人ずつ再登場し、煌々たる光をバックに圧巻のDANCETRACKを見せつける。白と黒、身につけられた反対色は何を意味するのか。過去か未来か、善か悪か、それとも、喜劇か悲劇か? 考える暇も与えぬまま、舞台の真上から降りる白い垂れ幕が荒野を彷彿とさせる『ケイカクドヲリ』のパフォーマンスへ。嵐にも似た風が吹きすさぶなかでも、一糸乱れぬフォーメーションダンスに五感もろとも持っていかれる。 勢いを緩めぬままに『Museum:0』へと突入したステージ上はもはや異空間で、見慣れたはずの時計の針を模したようなラインダンスも、非現実的に映る。 加速。疾走。このまま我々はどこへ行くのか。行き先もわからないまま、メンバー全員の「Welcome Back! Museum: Zero」の声が響いた次の瞬間には、天井から歯車や時計、本、額縁のモチーフが吊り下げられており、意図せず架空の美術館へ迷い込んでいたことがわかる。 本を手にしたメンバーたちが、一人ひとり確立したストーリーテラーとして、架空の未来を紐解いていく。 「もしも1000年後の世界で、あなたの歌が見つかったら」 「古ぼけた道を歩いていた」 「片思いの残骸を歩いていた」 「気の迷いをコンパスに変えて」 「返事がしないんだ」 「1000年後の未来も響いている」 「誰も知らない歌を歌おう」 恋や愛が消えてしまった1000年後に思いを馳せる『誰も知らない歌』で、メンバー全員と観測者の声が融合していく。無数の光の粒に誘われて、気づいたら「ら・ららら・ら~♪」のシンガロングに心ゆくまで身を委ねている。 デビュー後まもなくコロナ禍の影響を受けたげんじぶのライブでは、世相に合わせ、長らく観客の声出しが制限されていた。客席に呼びかけても返事がない時期が長かった彼らにとって、コール&レスポンスや、その場一体となっての大合唱は、決して当たり前の景色ではない。 「もしもの世界」をコンセプチュアルにまとめ上げた物語も、終幕が近いことを悟る。終わらないでほしい。ずっとこの時間が続いてほしい。観測者たちの願いを背負った彼らの姿は、伸びゆく音像に包まれて一瞬だけ暗転する。