熊本バス・鉄道5社「交通系ICカードやめます」 停止は年内予定、公共交通の運賃収受は本当にこれでいいのか?
硬貨の重要性再評価
熊本にも 「せっかく全国交通系ICカードに慣れたのに」 という人が少なからずいるだろう。ただ、公共交通事業者の経営的な窮状は理解しているので、一概に批判はできない。 筆者は前回の連載記事「路線バス問題だけじゃない! なぜ日本では「移動の自由」に関する真剣な議論が起こらないのか」(2024年5月30日配信)で、誰もが自由に移動できる権利 「移動権」 について書いたが、その観点から見れば、デジタル化、キャッシュレス化が進めば進むほど、 「公共交通から排除され、移動権すら持てない人」 が増えていくことになる。 ・貧困をなくそう ・飢餓をゼロに ・すべての人に健康と福祉を ・質の高い教育をみんなに ・ジェンダー平等を実現しよう ・安全な水とトイレを世界中に ・エネルギーをみんなに そしてクリーンに ・働きがいも経済成長も ・産業と技術革新の基盤をつくろう ・人や国の不平等をなくそう ・住み続けられるまちづくりを ・つくる責任 つかう責任 ・気候変動に具体的な対策を ・海の豊かさを守ろう ・陸の豊かさも守ろう ・平和と公正をすべての人に ・パートナーシップで目標を達成しよう というSDGs(持続可能な開発目標)が世界的に問われるなか、誰ひとり取り残さないためのユニバーサルデザインの理念も重要になってきているのだ。硬貨はアナログだが、 「真に万人に開かれたもの」 である。全国で使える交通系ICカードを管理するのが経営的に難しいのであれば、せめて硬貨だけでも残しておいたらどうだろうか。 国土交通省もキャッシュレス化の検証・評価を重要視しているが、ユニバーサルデザインの重要性を考え、移動権の観点から、地域でどの決済手段が重要なのかを議論してもらいたい。
西山敏樹(都市工学者)