熊本バス・鉄道5社「交通系ICカードやめます」 停止は年内予定、公共交通の運賃収受は本当にこれでいいのか?
路線バス完全キャッシュレス化
さて、本題である。 国土交通省はこのほど、路線バスの運賃をキャッシュレス決済のみで運行できるようにする方針を打ち出した。完全キャッシュレスバスを認めることで、 ・現金管理にかかるコスト ・ドライバーの負担 を軽減する狙いがある。筆者も通勤で都内の路線バスを利用するが、ときどき、運賃230円(均一)を5000円札や1万円札で払おうとする人がいて、運転手が困っているのを見かける。 札を崩せないとき、他の乗客に両替を頼む人もいる。これはドライバーの負担になり、バスの遅れの原因にもなる。事前に230円の硬貨を用意していない乗客が悪いのだが、 「交通系ICカードすら持っていない高齢者」 は意外に多いのだ。 一都三県に住む人の「約9割」が、交通系ICカードかモバイルICカードを利用しているといわれている。利用していないのは1割だ。大手クレジットカード会社のジェーシービー(東京都港区)が2022年3月17日に発表した「クレジットカードに関する総合調査」2021年版によると、クレジットカードを持っていない人の割合は14.1%となっている。
首都圏ICカード利用率
そんななか、また新たなニュースが飛び込んできた。熊本県内の路線バス事業者5社 ・九州産交バス ・産交バス ・熊本電鉄 ・熊本バス ・熊本都市バス は、バスと熊本電鉄電車の運賃支払い方法として、2024年内までに全国交通系ICカードの使用を廃止し、代わりにクレジットカードなどのタッチ決済を導入する方針を固めたというのだ。 クレジットカードに移行する主な理由は、交通系ICカードの運用コストに比べ、約半分に抑えられるからだ。現金決済や地域ICカード「くまモンのICカード」が継続利用できるようになったのは一安心だ。 しかし、この流れが全国に広がる危険性もある。そもそもクレジットカードは与信審査が基本である。 ・高齢者の増加 ・非正規社員の増加 で、クレジットカードをあきらめたり、審査に落ちたりする人が増える可能性も今後多くなるはずである。コード決済やモバイルICカード決済もクレジットカードとひもづいているケースが多い。 クレジットカードのタッチ決済は確かに便利だ。しかし、クレジットカードを中心とした決済システムのデザインが進むと、公共交通での移動そのものをためらう生活者が出てくる可能性が高い。 その点、交通系ICカードは無審査で購入できるため、誰にでも開かれたユニバーサルデザインの決済手段である。筆者のような“出張族”にとって、SuicaやPASMOで全国の公共交通を利用できるのはとても便利だ。このような状況が崩壊するかもしれないのである。