ライーシー大統領事故死でも続くイラン「既定路線」の中の「不確定要素」
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イランの エブラーヒーム・ライーシー大統領 が事故死したことは、国内外に二つの大きな懸念を巻き起こした。 一つは、85歳になるアリー・ハーメネイー最高指導者の後継者として最有力視されてきた人物が急遽不在になったことによる、イラン国内の政情の混乱に対する懸念である。保守強硬派のイスラーム法学者として検事総長(2014-16)、司法府長官(2019-21)と司法畑でのキャリアを歩んできたライーシーは、2021年の大統領就任をもって、最高指導者に求められる国政全般への政治経験を積むことになった。2024年3月には最高指導者を選出する権限を持つ専門家会議の議員選挙が実施されたが、体制の意向に与する監督者評議会は保守穏健派の大物であるハサン・ロウハーニー元大統領(2013-21)等の立候補資格を認めず、意図的な政敵の排除を行った。過去最低の投票率により専門家会議を独占した保守強硬派勢力は、異論を強権的に封じ込めることで最高指導者の円滑な継承に向けて盤石の態勢を整えてきたと言えよう。 しかし、ライーシーが事故死したことで、ここ10年近く国家的に進めてきた下準備は一瞬で水泡に帰した。代わりとなる後継候補を用意するとしても、ハーメネイーの年齢を考えると準備に悠長な時間をかけることはできない。革命の指導者であった初代最高指導者のルーホッラー・ホメイニーの後を継ぎ、1989年から35年間に亘って地域大国であるイランを導いてきた二代目の最高指導者は、イスラーム共和制の体制護持を託せる三代目を早急に見出す必要に迫られている。6月28日には新たな大統領を選出するための選挙が実施されるが、これが前回の2021年の大統領選同様に保守穏健派・改革派の候補を事前に排除した制限選挙になるとしても、保守強硬派内において突如空席となった地位をめぐって熾烈な権力争いが起きる可能性は否定できない。
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村上拓哉