初代ロードスターの原点に迫る【後編】米国マツダでデザインされ日本でのプレゼンで勝者に!『懐かしのデザイン探訪』
今も残るランニングプロトタイプ
MANA案が選ばれたとはいえ、プロジェクトに商品化へのゴーサインはなかなか出ない。そんななかマツダで先行技術開発を担う技術研究所が樹脂ボディを研究テーマに掲げ、P729のMANA案をベースに樹脂ボディの試作車を開発することになった。実走行可能なプロトタイプを作る「V705」プロジェクトのスタートだ。 「ベースに」と言っても、モデルから型取りしたわけではない。84年8月に帰国して通常業務に戻っていた梶山が、当時をこう振り返る「P729のモデルを本社で測定したのは覚えている。そのデータを基にどこでプロトタイプを作るのかは知らなかったけれど・・」 V705の設計と試作は外注だった。P729の測定データを受け取ったのは、英国のIAD(International Automotive Design)。76年に創立され、急成長していた自動車開発会社だ。IADは4代目(FR最後の)ファミリアのパワートレインと初代RX-7のサスペンションをベースにシャシーを設計。同社の米国拠点で、MANAから近いハンティントンビーチにあったIADウエストコーストでプロトタイプが組み立てられ、85年9月に完成した。 ここからMANAの人たちは大胆なことを考える。せっかくだから、とV705を公道で走らせたのだ。当然ながら道行く人々の視線を釘付けにし、追いかけてくるクルマも現れた。反響の大きさがロードスターの製品化を後押ししたというのは、これまでもよく語られてきたエピソードである。 このV705は2011年7月に横浜研究所で初めて一般公開された。八木は梶山からそれを知らされて見に行き、「私がデザインしたP729そのまま」と感じたという。その後は広島本社のロビーでも展示された。P729のクレイモデルはもちろんもはや存在しないが、同じデザインのV705がこうして状態良く保存されているというのは、P729に携わったすべての人々にとって幸せなことに違いない。
千葉 匠