【この冬、佐渡へ旅したい】森に育てられたオーナシェフが作る“唯ならぬ”美食とは
海の幸、大地の稔り、森の恵みに満ちた新潟県・佐渡島。意外にも、本格的な“フレンチ”を味わえる店が充実している。今回は、変化球に富んだ厳選グルメから、小木の港町で出あった「origine(オリジヌ)」の朝食を紹介。 【写真】この冬、佐渡へ旅したい
旅先では、時に格別な朝食を振る舞う店と出会える。小佐渡の最南端、小木の港町で朝7時からオープンしている「origine」も、そんな一軒だ。 米麹で発酵させた仄かに甘い食パン、サラダには新潟ならではの菊の花弁の酢漬けがあしらわれ、江戸時代からこの地区で栽培されている伝統野菜「八幡いも」からは大地の優しさが漂う。丁寧に裏漉しされたカボチャのポタージュを一口含むと、途端に身体中に口福が巡る。 慌ただしい日々の朝食では「今、何を口に運んでいるのか」さえ意識が及ばないことがあるが、この店ではそれぞれの食材の個性が語りかけてくるかのよう。「食べることは生きるために必然の行為だけど、“どう食べるか”を考えることはとても大切だと両親におそわった」と、オーナーシェフの伊藤 薫さん。
伊藤さんは新潟県の中越地区で、養鶏を営む自然卵を生業にする家に生まれた。幼少期は父親に伴われ、1日のほとんどを畑や森で過ごしたそう。まるで、レイチェル・カーソン著の『センス・オブ・ワンダー』に登場する少年を思わせる、森に育てられた伊藤さんが奏る料理は“唯ならぬはず!”と直感。 朝食後、特別にディナーのおすすめを撮影させていただいた。全6品からなる夜のコースから伊藤さんが選んだ一皿は、主役となる佐渡牛の藁焼き。 佐渡牛は年間で約30頭しか出荷できない幻の牛だ。潮風に包まれた佐渡稲藁を食べながら、5~10月にはのびやかに育つため、その味わいは柔らかくジューシーな肉質とあっさりと円やかな甘みが特長。伊藤さんは、生産者である牧場を訪ね、島外にある加工の現場も見学し、牛の命が人間の食べ物に変容する過程をしっかりと受け止め、想いをのせて火を入れる。 撮影のシャッターを切り終えるのを待ちかねて食したステーキは、言わずもがな。ひと噛みひと噛みを、記憶に刻むようにゆっくりと味わった。