樋口恵子×和田秀樹 65歳以上5人に1人が認知症と言われるのに「なったら人生おしまい」?高齢者の「迷惑をかけてはいけない」はマイナスにも働く
◆できることはたくさんある 和田 最近は、認知症になったご本人が顔を出して、どんな思いで、どんな生活をしているのか発信することが少しずつ増えてきました。それを見ると、認知症になってもできることはたくさんあります。 自分でもの忘れがあることを自覚して、買い物に行くときは何を買うかメモを活用したり、スマートフォンのリマインド機能を活用して薬の飲み忘れを防いだり、といった工夫をしている認知症の人もいるのです。 また、長年の経験で身につけた技は認知症になっても忘れないことが多いので、すごい技を持っている町工場の職人さんや、農業や漁業を長くやってきた方は、若い人には真似のできない熟練の仕事ぶりを発揮したりします。 たとえ、その日が何月何日か正確に答えられなくても、9+9の足し算ができなくても、得意な能力はすぐには失われません。 認知症医療の第一人者に、長谷川和夫先生という医師がいました。「長谷川式認知症スケール」という早期診断の検査テストを考案したり、「痴呆症」という侮蔑的な病名を現在の「認知症」に変えたことで知られています。 長谷川先生は、88歳のとき認知症であることがわかりましたが、認知症であることを公表し、もの忘れはするけれど、こうして話せるんですと日本各地を講演して回りました。 「認知症はちっとも不幸なものではない」と、身をもって示されたのです。
◆高齢になったら「人の手を借りる力」を磨く 樋口 長谷川先生とは、病院と地域をつなぐ中間施設(介護老人保健施設の前身)をつくる委員会でご一緒でした。ほんとうにいろんなことを教えていただいて、すばらしい方でした。 私はもし認知症になったら、長谷川先生のように公表しようと考えています。「まわりに隠さないで、友人や隣近所に告げて、できるだけ公的援助を受けてほしい」と娘にも言ってあります。 公表するかしないかは個人の自由ですが、家族が認知症であることを隠しての「かくれ介護」が増えると、外に向けて助けてと言えない家族が悲惨な末路を遂げたりと世の中暗くなるばかり。 社会学者の上野千鶴子さんからも、私のように「老い」をテーマに仕事をしてきた者には、自身の老い方を公表する責任があると言われ、なるほどと納得しました。 和田 私もそれはいいことだと思います。認知症であることを公表することで、協力者が増え、暮らしやすくなります。 80代以降は「老いを受け入れる時期」で、補聴器や 、車いすといった道具を上手に利用することが大切ですが、道具を上手に利用することと同時に、うまく「人の力を借りること」も必要になってくると思います。 日本人は「人に迷惑をかけてはいけない」という思い込みが強く、それはある意味で立派なことですが、年をとったときにはマイナスに働きます。うまく人の力を借りる能力は、老いを生きるうえで、ぜひ身につけてほしい能力です。
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