源氏物語は〝最古の女性文学〟…じゃない! 東アジアの文化の集大成だった 紫式部の能力とは
大河ドラマ「光る君へ」をテーマとした記事などで、紫式部の書いた「源氏物語」が「世界最古の女性文学」と紹介されることもあります。しかし、平安文学を愛する編集者のたらればさんは「これは単純に間違い」と指摘します。おすすめの「源氏物語」現代語訳や、その解説本も紹介してもらいました。(withnews編集部・水野梓) 【画像】「光る君へ」たらればさんの長文ツイート 1年「情緒がもつのか…」
東アジア文化の叡智の集大成
水野梓(withnews編集長):源氏物語を「世界最古の女性文学」と紹介する記事などもありました。たらればさんはX(旧Twitter)などでも明確に否定していますね。 たらればさん:これはよくある誤解だし、そう言いたくなる気持ちも分かるんですよね。源氏物語が日本文学を代表するすごい作品だというのは、まあ広く一般的に普及している認識で、では「どこがすごいのか」というと、なかなか説明が難しい。 特に「ひと言で短く説明してください」と言われると非常に難しくて、そこでたとえば「最古の物語」だとか「最初の女性文学/女流小説/ベストセラー」といった「分かりやすいフレーズ」をつけたくなる気持ちは分からないでもないとは思います。思いますが、しかしこれは単純に間違いなわけです。 なぜいちいち「そういうこと」を説明したほうがいいかというと、これは日本文学史をすこしでも体系的に学ぶと分かることですが、源氏物語は「それまで」のいろいろな作品や文化の集大成のひとつだからです。 水野:さまざまな作品のエッセンスが入っているということでしょうか。 たらればさん:そうです。河添房江先生の「源氏物語と東アジア世界(NHKブックス)」でも解説されていますが、源氏物語はそれまでの日本文学作品だけでなくて、東アジア文化全般の叡智が集結されているものでもあります。 だから「紫式部は突然変異で現れ、【神】のようにあらゆるシーンやキャラクターを創作した」で終わってしまうのは、ちょっと違うんじゃないかなということです。 水野:なるほど。 たらればさん:紫式部という作家は、ゼロからイチを作り出す能力ももちろんあったとは思いますが、それ以上に、人の話を聞いてそれを昇華したり、先行する作品を読み込んで自作品に盛り込んだりアレンジして再構築する能力も非常に高かったわけです。 彼女は天才ではあるんですが、それまでにあった豊かな文化の土台を吸収して大成させた人物でもあるわけです。 水野:源氏物語よりも過去の文学作品で「女性文学」というと、道綱母が書いた「蜻蛉日記」のほかにも、さまざまな女性が詠んだ和歌もありますよね。 たらればさん:紫式部は和歌も漢詩も物語も好きでしたから、自国の古典作品も、海外の文化も、貪欲に吸収してあの作品ができているわけです。