源氏物語は〝最古の女性文学〟…じゃない! 東アジアの文化の集大成だった 紫式部の能力とは
「物語でしか語れないことがある」
水野:やはり古文で通読するのは難しいので、現代語訳で源氏物語を読んでみたい、という方には、どなたの訳がおすすめですか。 たらればさん:あらすじの次のステップとして、源氏物語を現代語訳で読んでみたい方には、河出文庫から出ている角田光代先生の訳や、理論社から出ている荻原規子先生の訳がおすすめです。 水野:1000年前の文化や風習の違いを飛び越えるためにも、やっぱり現代のわたしたちに近い時代の訳を通して読んだ方がスッと入ってきそうですね。 たらればさん:古典文学全般に言えることですが、やはり当時の常識でしか分からない文脈や前提があるので、わたしたちに近い時代の訳のほうが、「そこ」が埋められていると思います。 もともと「源氏物語」は限られた貴族に向けた物語なので、より「分かる人だけ分かればいい」という文脈勝負みたいなところがあって、そういった文脈を想像で埋めていくしかありません。 たらればさん:今回の大河ドラマ「光る君へ」のすばらしい点のひとつは、大事なシーンでセリフがないところだと思いますが、わたしたち視聴者はその隙間を想像で埋めていきますよね。 まひろはきっとこう思ったはず、道長はこう感じているはず…と想像すると、登場人物が自分だけのまひろになり、自分だけの道長になってゆきます。 水野:より思い入れが強くなっていきますよね…。だからダメージも受ける…。 たらればさん:より力強く作品と結びつくことができる、これは作劇のうまさだし、解釈の多様性を武器にしているんだなあ、と思いますね。
紫式部がバー「ゆかり」を開いたら…
水野:先ほど、源氏物語は現代の文化とは大きく違うという話がありましたが、山崎ナオコーラさんの「ミライの源氏物語」(淡交社)がすごく面白くって。 たらればさん:あ~面白かったですね。読みやすく、非常に勉強にもなりました。 水野:ロリコンや不倫、ジェンダーといった現代の目線だとモヤモヤするところをどう読んだらいいのか、というのをエッセイ形式で書いてくれていて。源氏物語の描写を振り返ることもできるので、おすすめです。 たらればさん:それがお好きなら、おすすめがありますよ。奥山景布子先生の「ワケあり式部とおつかれ道長」(中央公論新社)です。 作家であり、源氏物語のばりばりの研究者でもある奥山先生が書かれていて、「ママ」である紫式部のバー「ゆかり」に行って、お酒の合間にいろんな体験談や愚痴を聞いていく…という面白いスタイルの本です(バーテンダーは行成、常連客は道長)。 水野:わ~絶対読んでみよう。前回のたらればさんのおすすめ本も、すでに2冊読みました。当時の文化や貴族たちの思いがもっと知りたいなぁって感じましたね。 ▼大河ドラマ「光る君へ」深掘りしたい人へ たらればさんのおすすめ本 https://withnews.jp/article/f0240218000qq000000000000000W02c10501qq000026632A たらればさん:源氏物語という作品は、おそらく日本文学で最も研究者が多いジャンルであり、紫式部ってやっぱり国文学界のスーパースターなんだなってあらためて思いますね。 今年の大河ドラマをきっかけに、1冊でもいいので平安時代の関連本を読んでもらって、紫式部や清少納言のことを好きになってもらえると嬉しいです。 ◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。 次回のたらればさんとのスペース(https://twitter.com/i/spaces/1OdKrjeLXdQKX)は、4月7日21時~に開催します。