ヤクルト・奥川恭伸が復活星!右肘手術回避の裏にあった体からの〝サイン〟
【球界ここだけの話】あふれる涙をこらえられず、言葉を詰まらせる姿には、誰もがグッと来ただろう。記者もその一人。奥川恭伸投手(23)が14日のオリックス戦(京セラ)で980日ぶりの勝利を挙げ、泣いた。ヤクルト担当として、奥川の絶頂もどん底も見てきたからこそ、「また勝てて、本当によかったな」と感じた。 【写真】オリックス戦で980日ぶりの勝利を挙げ、ヒーローインタビュー中に涙を流すヤクルト・奥川恭伸 2022年の奥川は、とにかく暗かった。表情を見てもとにかく笑顔はなかった。同年3月29日の巨人戦(神宮)で右肘を痛め、長いリハビリ生活に突入。投げられないことへのストレスもそうだが、「手術」に対するSNSなどでの〝声〟も気になっていた。 たしかに、悩んでいた。手術を受けるか、受けないか。受けたら長期離脱は必至。勧める意見もあったが、さまざまな医療機関を訪ね回り「自分の野球人生」とメスを入れないことを決めた。 各個人の意見があるから、どれも否定はしないが、手術は決して100%成功して良くなるという保証があるわけではない。もちろん再発のリスクなどもあるが、切らないで治るのではあれば、その方がいいのかもしれない。特に奥川は高い制球力が武器の投手。本人も「手術をして球速は戻るかもしれません。ただ、自分にしかない手の感覚、指先の感覚がなくなるのが怖い」と口にしていた。自身の生命線ともいえる、生まれ持った制球力の高さを失うかもしれないという恐怖心は、奥川だけにしかわからないもの。「絶対に保存(療法)で治してやります」と口にしたときの目には、相当な覚悟が見て取れた。 何より、体からある〝サイン〟が出ていた。 「もう駄目だと思ったら、次の日には普通に投げられたり、ブルペンでいい球がいくようになったりしたんです。実際に診断画像を見ても、思ったよりも損傷していなかったり。これは『切らないでくれよ。まだこの体で投げられるから』という体からのサインなのかなと」 23年以降は、左足首骨折や腰痛など他のさまざまな箇所を痛め、1軍復帰が遅れた。逆に言えば、保存療法を決めてからは右肘の痛みで大きな離脱はなかったのだ。 6月14日の試合後、目に涙を浮かべながら「自分が歩んできた道が間違いじゃないことをしっかり証明したいと思っていた」と言った。あらゆる批判に耐えながら前に進んできた。決して簡単な道ではない。苦しみながらも自分を信じて苦難を乗り越えてきた。だからこそ、奥川の復活星は多くの人に希望を持たせる勝利でもあった。(赤尾裕希)