「年収の壁」解消へ議論加速、就業調整で経済下押し-矢田首相補佐官
(ブルームバーグ): パート労働者などの年収が一定水準を超えると手取り収入が減る「年収の壁」について、矢田稚子首相補佐官は解消に向けた議論を加速させたい考えだ。
矢田氏は21日のインタビューで、「年収の壁」は会社員の妻らが収入を社会保険料負担などが生じない範囲内におさめる「就業調整」につながっていると指摘。労働力不足に拍車をかけ、経済成長の下押し要因になっているとの見方を示した。次の世代の女性が「妻として働かないのがお得」との意識を持ったり、押し付けられたりせずに済むよう「残すべきではない」と語った。
賃金・雇用担当の矢田氏は、関係省庁の担当者を集めた「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム(PT)」の座長を務めている。PTでは男女間の賃金格差を生む要因として年収の壁を挙げて議論。6月にも中間報告をまとめ、政府が策定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に反映させる。
年収の壁は会社員の配偶者がパートなどで働く場合、企業規模などに応じて年収「106万円」や「130万円」を境目に年金保険料などの負担が生じ、手取り収入が減る現象。背景には収入が壁を下回れば、個別に支払わなくても年金を受け取れる「第3号被保険者制度」があり、2025年の年金制度改正で論点の一つとなっている。
野村総合研究所が2022年9月に実施した調査によると、配偶者がいるパート女性のうち61.9%が、自身の年収額を一定の金額以下に抑えるために、就業時間や日数を「調整している」と回答した。同総研は、年収の壁による働き控えの必要がなくなった場合の経済効果を8.7兆円と試算している。
意識改革
政府は昨年、「壁」を越えて働いても手取りが減らないよう、事業主に労働者1人当たり最大50万円を支援する2年間限定の制度を導入した。
矢田氏は、同制度に関連してヒアリングを行った際、「夫の意向を受けて就業調整をする女性が意外に多い」との印象を受けたといい、「昭和から平成時代につくられた意識や風土を転換する」必要があると述べた。毎年の収入や目先の免除される金額ではなく、生涯収入の観点から女性が自らの人生設計を考えるよう広く周知し、意識改革を促す必要があると述べた。